配偶者の同意がないまま女性に人工妊娠中絶手術をしたのは母体保護法違反だなどとして、女性の夫が産婦人科医に慰謝料200万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部(谷口豊裁判長)は5日、夫側の請求を退けた1審・那覇地裁沖縄支部の判決を支持し、控訴を棄却した。女性が夫からのドメスティックバイオレンス(DV)や婚姻関係の破綻などを訴えたため、夫の同意を得なかった医師の判断について、福岡高裁那覇支部は「過失があるとまで断ずることはできない」と判断した。
母体保護法は女性が中絶手術を受ける際、原則として配偶者の同意を必要としている。厚生労働省は2021年3月、DV被害などで婚姻関係が事実上破綻し、配偶者の同意を得ることが困難な場合、「本人の同意だけで足りる」とする見解を示しているが、現場では訴訟リスクなどを恐れ、医師から配偶者の同意がない手術を拒まれるケースがある。
1、2審判決によると、女性は17年4月、産婦人科医が経営する沖縄県内のクリニックを受診し、人工妊娠中絶を希望した。女性は「配偶者とは離婚調停中でサインを得られない。DVのような行為もあった」などと話したため、産婦人科医は夫の同意を得ずに手術した。
夫側は「女性の申告の真偽を確認する義務を怠った」として、産婦人科医を提訴したが、1審・那覇地裁沖縄支部は21年11月、「女性の説明は具体的で、医師が信頼したのは合理的だ」などとして、請求を棄却。夫側が控訴していた。
福岡高裁那覇支部は、離婚の成否に関する女性の説明が変遷している点で「医師が女性に再度確認しなかったことは不適切だった」と指摘。一方、夫によるDVのような行為が原因で婚姻関係が破綻状態にあるという点では「説明は大筋で変遷がない」とし、「医師が女性の説明を信用し、配偶者の同意を得ることが困難と判断したのは不合理とまでは言えない」と結論づけた。
また、「医師には特段の調査権限が付与されておらず、妊婦から申告があった場合の事実関係の確認方法には限界がある」とも指摘した。
立命館大の松原洋子教授(生命倫理)は「中絶手術に配偶者の同意を原則とする以上、『例外』に当たるかどうかを判断する医師には今後も訴訟リスクが伴う。医師が安心して女性をサポートし、女性も安心して医師に相談できるよう、母体保護法の改正も含め議論していかなくてはならない」と話した。【喜屋武真之介】