在日コリアンらの通う学校に火を付けたり、国会議員事務所に侵入したりし、建造物損壊や建造物侵入などの罪に問われた男の公判が大阪地裁で行われている。公判では、SNSで極端な意見や根拠のない情報に触れる中でゆがんだ憎悪を募らせていった経緯が明らかになった。男の判決は8日に言い渡される。
男は、大阪府箕面市の無職(30)。4月に「コリア国際学園」(大阪府茨木市)に侵入し、建物内の段ボールに火を付け、床を焼損させたとされる。3~5月に立憲民主党の辻元清美参院議員の事務所(同府高槻市)や大阪市内の創価学会の施設の窓ガラスを割ったなどとする罪でも起訴されている。
冒頭陳述などによると、男はツイッターを情報源とし、在日外国人らを非難する内容を繰り返し、目にしていたという。
「在日韓国人・朝鮮人を野放しにすると日本人が危険にさらされると思った」
男は起訴事実を認め、被告人質問で事件の動機を淡々と語った。男のものとみられるツイッターのアカウントでは「韓国に道徳などあると思うな」などと発信。保守的な考えを持つ評論家らを多数フォロー(登録)し、外国人を批判する投稿やユーチューブの動画を閲覧し、拡散しようとしていた。
男はそうした投稿や動画を見るうちに「行動しないのが悪」「なぜ行動に移さないのか」と不満を抱くようになったとし、暴力に訴えることへの抵抗感は「なかった」と語った。しかし、在日コリアンと話したことはなく、あくまでSNSの情報だけだった。
その他の事件についても、他国に対する姿勢を巡る立憲民主党や創価学会への批判的な言説をツイッターなどで目にしていたのが理由だったと明かした。
検察側は論告で「憎悪心に基づく動機は反社会的で、社会に強い不安感を抱かせた」として懲役3年を求刑。弁護側は「偏った情報を取っていたと反省している」として執行猶予付きの判決を求めた。
男は法廷で「自分が正しいと思い込み、善悪の冷静な判断ができなかった」と話した。
SNSでは、自分と異なる考えや価値観に触れる機会が失われる危うさが指摘されている。
ツイッターではフォローした人の投稿が優先的に表示されるほか、ユーチューブは再生履歴などから関心を持つと推測される動画が自動的に表示される機能があるためだ。
自分の関心がある内容だけが届き、泡に包まれて外部と遮断されたような状態になることから「フィルターバブル」と呼ばれるほか、閉ざされた空間で同じ主義主張ばかりが増幅される「エコーチェンバー(反響室)」という現象につながりやすい。
ネットの
誹謗
(ひぼう)中傷の問題に詳しい国際大グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は「偏った情報に繰り返し接しているうちに、ゆがんだ正義感で、攻撃的になってしまうこともある。SNSの特性を知り、情報が偏っている可能性があると自覚しておく必要がある」と話す。