東京都東村山市で今年5月、住人の一家4人が死亡した民家火災で、焼け跡から死後1年以上が経過した三男(30)の遺体が見つかった事件。警視庁は亡くなった4人のうち、誰かが放火して家族を殺害し、無理心中を図ったとみている。一家に何があったのか。困窮の末の選択とみられるが、「ほかに選択肢はなかったのか」。知人らは苦渋の表情を浮かべる。
火が放たれた際、一家4人は、2階のひと部屋に集まり寄り添うように横たわっていた。捜査関係者によると、まるでこれから訪れる「死」を全員が受け入れていたかのようだったという。なぜ、無理心中を図ったのか。
死亡したのは男性(65)と妻(64)、次男(36)、四男(26)。出火当時、長男は実家を出ていて4人暮らしだった。知人らによると、次男と四男は、いわゆる引きこもりで、新聞配達員をしていた男性とパートの妻の2人で家計を支えていた。
しかし、男性は2年ほど前に体調を崩して配達員を辞め、男性の看病に妻もパートを休まざるを得なくなった。一家の収入源は断たれ、関係者は「経済的に大変だったのだろう。四男はかなりやせ細っていた。食べるものもままならなかったのではないか」とみている。
一方で、一家には、周囲に隠し続けていた事情もあった。三男は1年以上前に病死したとみられるが、毛布にくるんで遺体を自宅に置き続けていたことだ。
三男がアルバイトをしていた釣り堀の男性オーナー(63)によると、三男との音信が途絶えたのは平成28年ごろ。「バイトを休ませてほしい」。見るからに体調が悪そうで、そう電話を入れてきたのが最後だった。
オーナーは受診を強く勧めたが、その1~2週間後には、三男が亡くなったという話が知人らの間で広まった。オーナー側は、しばらくして未払いのバイト代を支払おうと、三男宅を訪れたが、家族からは「(三男は)外出している」と言われ、暗に死亡を否定された。焼香したいと訪れた知人らも同様に門前払いされたという。
関係者は「経済的に困窮し、葬儀を出せなかったのではないか」と推察している。そして一家は三男の遺体と暮らし、収入源を断たれた末に無理心中した。生活保護などを申請していた形跡は確認できなかったという。「ほかに選択肢はなかったのだろうか」。知人らは、やり切れない思いを抱えている。
警視庁は三男について、生前に断食を続けたことによる衰弱死の可能性が高いとみているが、捜査で死亡の経緯や放置されていた理由はわからず、他殺の可能性も否定しきれないことから、三男の死亡についても容疑者不詳のまま殺人容疑で書類送検し、一連の捜査を終結する。(王美慧、内田優作)