埼玉県深谷市北部で先月、農業用水路に転落した80歳代の女性を、近くで仕事をしていた4人の男性が救出した。用水路は幅約1メートル、深さ約2メートル。足腰が弱かった女性は立ち上がることができないまま、見つかるまで1時間がたっていた。地元の食品工場と、その電気工事で出入りしている会社の男性たちは、とっさのチームプレーで凍える女性を引き上げて体を温め、命を救った。(石井貴寛)
畑の中に住宅や工場が点在する同市の中瀬地区。11月2日午後2時頃、冷凍とろろメーカー「マルコーフーズ」の駐車場で照明器具の設置作業をしていた社員の斎藤宣夫さん(53)はか細い声に気づいた。「助けて……」。テレビの音かとも思ったが、繰り返し聞こえる。周囲を見回り、50メートルほど歩いた。生い茂る雑草の中を流れる用水路をのぞくと、下に高齢の女性があおむけで倒れていた。
水深は15センチ程度だったが、女性は水から顔を出すのがやっと。斎藤さんは「まさかここに人がいるなんて」と混乱したが、すぐに用水路に下りて女性の体を起こし、土手を背に座らせた。女性はびしょぬれで、ガタガタと震えている。手持ちのスマートフォンで110番はしたが、急がないと危険だ。でも、自分だけで用水路の上に女性を押し上げるのは難しい。
大声で助けを求めたのが、ちょうど屋外でエアコン修理にあたっていた「中西電気深谷」社長の村岡敏弘さん(60)だった。村岡さんも用水路で倒れた女性の姿に驚いたが、すぐに下りて抱きかかえた。足元は滑る。斎藤さんが足場を見つけて先導した。
村岡さんと一緒に作業に来ていた息子の誠一郎さん(29)、根岸蓮さん(20)もこれを手伝った。若い2人は機転を利かせ、工事用の養生シートを持ってきた。毛布代わりだ。救急車が到着するまでの間、用水路近くの路上に寝かせた女性の体をさすって温め、「大丈夫だよ」と励まし続けた。低体温症の症状が出ていたが、命には別条がなかった。買い物帰りの転落事故だった。
4人には深谷署から感謝状が贈られた。斎藤さんは救出した時のことを「会社は違っても、日頃の付き合いですぐに協力し合えた」と振り返り、「何よりも転落していた女性に気づけてよかった」と話していた。