各地の家裁で重大な少年事件の記録廃棄が相次いで判明した問題で、最高裁は2年前まで事実上の永久保存(特別保存)の基準を具体化した運用ルール作成を各裁判所に求めていなかった。読売新聞の調査で、全国で50ある家裁本庁がルールを作ったのはすべて2020年以降だったことが明らかになった。長らく制度が形骸化し、廃棄につながった可能性が高い。最高裁は保存のあり方の検討を始めている。
史料的価値
最高裁は1964年に「事件記録等保存規程」を作成。少年事件では少年が26歳に達するまでを保存期限とする一方、史料的価値が高い事件は各裁判所が永久保存するとした。92年の通達で▽世相を反映し、史料的価値が高い事件▽全国的に社会の耳目を集めた事件――と対象を示した。
しかし、2019年に重要な民事裁判記録の大量廃棄が判明。これを受け、最高裁は20年3月、▽最高裁判例集に掲載▽日刊紙2紙以上の全国面で報道――などと永久保存の基準を明確化した運用ルール(運用要領)のモデルを全国の裁判所に示し、作成を促した。
神戸市で1997年に起きた連続児童殺傷事件の全記録の廃棄が今年10月に判明した際、最高裁は廃棄時点では神戸家裁で運用ルールが未策定だった点を踏まえ、「具体的な運用要領がなかったことは問題だ」と言及。十分に機能していなかったとの認識を示した。神戸家裁も「要領ができて適正になった」とした。
最高裁モデル踏襲
読売新聞は県庁所在地にある47家裁と、北海道の函館、旭川、釧路3家裁の計50家裁に、運用ルールの有無と作成時期、特別保存の対象事件数などを尋ねた。
調査に対し、50家裁すべてが2020年以降に運用ルールを作成したと回答。最高裁が作成を促したことをきっかけとする家裁が多く、「具体的な運用要領がない状況は適当でない」(横浜家裁)などとした。ほとんどが最高裁が示したモデルを踏襲していた。
最高裁が10月に全国の家裁に行った調査では、永久保存された事件記録は15件。東京家裁10件、さいたま、大阪、福井、山口、佐賀の5家裁が1件ずつだった。
読売新聞の調査では、松山家裁が「記録庫を再確認したところ、1963年に発生した事件の記録が特別保存されていた」と回答したほか、いずれも少年が検察官送致(逆送)された1999年の山口県光市の母子殺害事件など4件は、家裁が少年の生い立ちなどをまとめた少年調査記録に限って永久保存しているなどとしたが、それを合わせても20件にとどまる。
意識高い欧米
東京弁護士会で事件記録の保存を検討する委員会座長の清水勉弁護士は「記録保存の意識が裁判所全体に浸透していない。特に運用要領ができるまでは、『26歳に達するまで』という規程が定める保存期限が絶対視され、過ぎたらきちんと検討せずに廃棄していたのではないか」と語る。
欧米では、公文書管理の意識が高く、保存の是非を判断して分類、整理する専門家の育成も盛んだ。裁判の記録も裁判所や公文書館で保存され、広く公開、活用されているという。
裁判記録の保存に詳しい福島至・龍谷大名誉教授(刑事法)は「少年事件の記録は社会や時代性が反映された国民共有の知的資源だ」と指摘。「運用要領ができたとしても裁判所内部だけで適切に保存するのは限界があり、今後は第三者を交えた運用のほか、公文書館へ移管する仕組み、記録のデジタル化が不可欠だ。『原則廃棄』から『原則保存』に切り替え、意識を高める必要がある」とする。
最高裁は11月から有識者委員会で保存のあり方の検討を始めており、廃棄が判明した事件の経緯を調査し、報告書をまとめる。
重大事件41件で保存は8件のみ
読売新聞は、1年間の国内外の動きをまとめた国内唯一の総合年鑑「読売年鑑」掲載の少年事件について、全国の家裁に記録の保存状況を尋ねた。
対象は、最高裁が永久保存に関する通達を出した1992年から昨年までに起きた掲載事件のうち、故意の行為で人を死なせて保護処分となった41件。
「事件が特定できない」などとする家裁もあり、回答があった36件のうち、記録が保存されていたのは8家裁8件だった。永久保存されていたのは、2000年の西鉄高速バス乗っ取り・殺傷事件と同年に山口市で16歳少年が母親をバットで殺害した事件の2件。11年に大津市立中の2年生がいじめを受けて自殺した問題など5件は26歳までの保存期限内で記録が残っていた。1993年に起きた山形県新庄市立中のマット死事件は、山形家裁が保存期間を2025年まで10年間延長して保存していた。
一方、神戸連続児童殺傷事件のほか、04年に長崎県佐世保市で小学6年生が同級生を切りつけて殺害した事件など28件は「保存期間が経過した」「特別保存の対象とならなかった」などとして廃棄されていた。