「氷河期世代こそ議員を目指せ」。そう力強く語るのは、埼玉県の和光市で市議会議員を務め、“若者選挙プランナー”としても活動する、萩原圭一さん(@hagi_k1)。
社会人、大学院生、フリーターを経て、まったくのゼロの状態から、わずか1か月半の活動で2019年に和光市議会議員に初当選した異色の経歴を持つ。
萩原圭一さん
36歳で当選を果たした萩原さんは「議員になって人生を一発逆転した」と振り返る。2023年春の統一地方選挙まで約4か月の今、萩原さんは「コネなしフリーターでも2か月で議員になれる」と語るが、その真意は何なのか。本人を直撃した。
◆社会人を経て東大院に。しかし…
「有権者のみなさんもご存知かと思いますが、地方議会の議員は年齢層が偏っているんですよ。私のいる和光市議会で言えば、議員の平均年齢は60歳前後。議員は“市民の代表”と言われますが、若い議員がいなければ、若い人の声は届きにくくなります。当選から4年近く経ち、私も40歳になりましたが、それでも若いほう。25歳から被選挙権を得られるにもかかわらずです。そうした状況を鑑みて、選挙に立候補してくれる人が増えてほしいと願っています」
大学卒業後、投資顧問会社などで正社員を経験し、「自分はサラリーマンに向いてない」と考えた萩原さんは、自由を手に入れようと1年間の勉強を経て東京大学大学院に入学した。が、金銭面と体調面の問題から中退し、フリーターとなった。
当時は「社会的に認められず、どこに行っても軽くあしらわれる」と悔しく思う日々を過ごしていたという。
◆「出馬したら行けるんじゃないか」と直感
そんなときにふと目にしたのが、3か月後に行われる統一地方選挙のニュースだった。選挙のたびに街中に貼り出されるポスターの掲示板を見て「若い政治家がいない」と思っていた萩原さんは、「投票したい政治家もいないし、それなら自分が出よう」と発想を転換して立候補を決意した。
「当選の確証はないけど、“自分が出馬したら行けるんじゃないか”という直感があったんです。フリーター生活で社会的な立場の弱さを感じていましたし、将来への不安もありましたが、春の統一地方選挙に向けて、勢いのまま2月の立候補予定者説明会へ参加し、3月上旬から投票日まで1か月半ほどの活動で当選を果たしました」
◆わずか1か月半、実質5万円の諸経費で当選
選挙と言えば、立候補者が街中を選挙カーで走り回り、大音量のマイクを使った街頭演説で有権者に訴えかけるイメージもある。ただ、萩原さんはいずれも実践していない。
「実際の活動は、選挙前の期間に自転車で自作のレポートを配って回っただけです。また、選挙にはお金がかかるイメージもあると思いますが、実質の出費は、選挙ポスターと『今の議会には若い人がいない』と思いをぶつけたチラシの印刷費、諸経費で合わせて5万円ほどでした。立候補するための供託金30万円も支払いましたが、当選後に返還されました。もし落選しても、よほど低い得票数でないかぎり返還されます」
結果、萩原さんは「589票」の得票数で当選を果たした。当時の順位は立候補者23人中17位で、当選者18人のうち下から2番目。しかし、順位ではなく「当選するという結果にこそ意味がある」と言う。
「当時の和光市は人口が約8万3000人で、有権者はそのうち約6万5000人。出馬した2019年の市議選では投票率が38%ほどでしたから、実際の投票者数は2万5000人ほどでした。つまり、その2~3%にあたる票を獲得できれば当選できるんです。順位も当選者のうち下から2番目でしたが、別にトップを取らなくてもいいんです。大学受験と同じで、当選できればいい。最高点を取る必要はないです」
◆立候補したい若者は「都市部のほうが有利」
萩原さんは、議員に当選するまで一山いくらの“コネなしフリーター”だった。秘書などとして政治家に師事した経験もない。まったくのゼロの状態から、短期間で有権者の支持を獲得できた最大の理由は「若さ」にあったと話す。
「選挙では、若い候補者ほど票が入りやすい傾向があり、当初から『少なくとも200~300票は入るだろう』と推測していました。立候補した和光市は他の地域と比べて市民の平均年齢が低い印象だったのも、そう考えていた理由です。ですから、若くして立候補を考える人がいるのなら、平均年齢が高い地方よりも、都市部のほうが有利だと考えています」
◆20~30代に新しい風を入れてほしい
市議会議員への当選で文字通り「人生一発逆転」を果たしたわけだ。生活も大きく変わり、編集部での取材当日には「久びさに満員電車に乗りました」と微笑んだ。
現在、活動の中心は自身の選挙区・和光市だ。議会で議案を審査したり、さまざまな問題を提起したりしている。それ以外の時間は支援者の輪を広げるため和光市内を駆け回る日々を送る。とはいったものの、充実した活動の裏では、議会の現状への危機感を常に抱いている。
「今の和光市議会では40歳の私が最年少で、20代と30代はゼロです。年齢構成はほとんどが60歳前後ですが、そうした方々は自分が落選する可能性もあるので、若い人に出馬してほしくないんですよ。実際、『次の選挙は立候補者が少なければいいよね』と話している議員もいるほどですから。いわば、保身ですよね。20~30代の方々にも積極的に立候補していただき、議会に新しい風を入れないと市民のためにならないと強く思っています」
◆いまだに無所属で活動し続ける理由
政治の世界は、政党や会派といったしがらみの強い印象もある。けれども、何のツテもなく無所属での当選を果たした経験は、議会での活動に活かされた。
「表向きには無所属の議員でも、実態は自民党などの政党の党籍を持っていたり、議会の中で会派を組んでいたりします。私のように会派にすら入っていない“完全な無所属”はめずらしい。政党や会派はいわゆる『同じ考えを持つ人の集まり』と表現できますが、私は無所属なので自由な活動ができます。
支援者の輪を自由に広げられるのがメリットで、個人宅やお店、会社へ飛び込み、自分の政策を伝えることができるのは、制限やしがらみのない無所属だからこそのメリット。その反面、先輩議員の支援がないので、議会で審議される議案などについて1人で勉強するのは大変ですが、そのぶん成長も実感できます。当選した当初は、若さもあり『うちに来ないか?』と誘われたこともありましたが、迷った末に、個人での活動を選択したのは正解だったと思っています」
◆「氷河期世代こそ議員を目指せ」の真意
出馬した当時の選挙掲示板(写真右上)
萩原さんは「氷河期世代こそ議員を目指せ」と強く主張する。その言葉の真意とは何か。
「漫画『ドラゴン桜』(講談社)の名言『バカとブスこそ東大に行け!』をもじって考えた言葉です。私自身、東京大学大学院にいたのでその言葉の意味も分かりますが、ほとんどの東大生は努力して入った凡人なんです。
でも、入学さえできれば人生を変えるチャンスになる。議員の世界も同じで、フリーターだった自分のように非正規雇用での生活に不安や葛藤を抱いている人ほど、議員を目指してほしいと思っています。失うものは何もないし、議員に当選すれば収入も待遇も変わり、生活も一変しますから。氷河期世代はおおむね40代になり、世の中ではもう“おじさん”ですが、政治の世界ではまだ若く、選挙では有利なので、立候補して『人生一発逆転』のチャンスをつかみとってほしいです」
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人生は何が起こるか分からない。萩原さんのように、勢いのまま未知の世界へ飛び込み、形勢逆転する人もいるのだ。行動すれば、チャンスをたぐり寄せられる。ハードルの高いイメージもある議員への立候補も、その選択肢のひとつなのである。
<取材・文/カネコシュウヘイ 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>
フリーの取材記者。編集者、デザイナー。アイドルやエンタメ、サブカルが得意分野。現場主義。私立恵比寿中学、BABYMETAL、さくら学院、ハロプロ(アンジュルム、Juice=Juice、カンガル)が核。拙著『BABYMETAL追っかけ日記』(鉄人社)。Twitterは@sorao17