平成から令和への「代替わり」時、学生に天皇と聞くと何を思い浮かべるのか尋ねると、多くが被災地訪問を含めた人々との交流を挙げた。平成の天皇は「象徴」のあり方として、人々に寄り添うことを重視してきた。それがメディアを通じて私たちに伝えられ、象徴天皇と言えば各地に足を運び、人々と交流をする存在だとイメージされるようになった。
令和の天皇もそれを引き継いだが、新型コロナの流行がそれを阻むこととなった。天皇や皇后が各地を訪問すれば、自身が感染する可能性もある。訪問時に人が密集すれば、感染拡大を招く可能性もある。つまり、物理的に人々と接触をする、いわゆる「平成流」のあり方は、新型コロナと相性が悪い。そのため、天皇の模索が始まっていった。
コロナ禍のなかで、模索する皇室
まずは、積極的に専門家から話を聞くことから始めた。従来、こうした「ご進講」の様子が公開されることはほとんどなかった。ただし今回は違った。天皇と皇后が、マスクをしながら御所で専門家から話を聞く姿が写真とともに報じられ、感染拡大で苦しむ人々や医療従事者を心配する「おことば」とその様子が公表された。こうして、外出できなくても人々に寄り添う天皇像が印象づけられた。
また、「オンライン行幸啓」なるものも生み出された。行幸啓とは天皇と皇后が外出することである。それをオンラインでというのはやや不思議な概念であるが、逆にオンラインゆえ、1日で東西南北様々な地域の人々と会い、通常では訪問が難しい離島や中山間地域などの人々と比較的容易に対話できるというメリットも生まれた。また、全国植樹祭などの儀式にもオンラインで御所から出席し、各地の人々と交流する方策が展開された。
天皇は様々な儀式での「おことば」で新型コロナの問題に言及することも多くなり、新年の一般参賀の代替として、天皇と皇后が2人そろって画面に登場するビデオメッセージも発表された。
このように、2020年以降、コロナ禍のなかで、皇室も模索をしている。
とはいえ、様々な問題が生じていることも事実である。天皇と皇后は、感染拡大状況を見極めながら、行事に出席するために次第に外出を再開するようになった。ただし都内に限定されており、宮内庁では各地で開催される行事出席をどう判断するか、検討がなされ始めていた。
ご成婚30年の節目を迎える両陛下
その時、2022年9月にエリザベス英女王が死去する。おそらく天皇と皇后の意向が強く反映されたと推測されるが、二人でイギリスに向かい、その国葬に出席した。天皇・皇后として初めての外国訪問となった。コロナ禍で皇室全体が外国へ行けていないなかで、天皇と皇后が都外へ出る初めての機会が外国であるという異例の出来事であり、思い切った決断をしたものと思われる。それだけ、イギリス王室を重要視したのだろう。
天皇と皇后の訪英は、ウィズコロナのなかで活動する第一歩になった。10月以降は、恒例の「四大行幸啓」が始まり、人々との交流も直接的な形に戻りつつある。栃木県での国民体育大会には天皇と皇后が出席した。そして、2023年には成婚30年の節目を迎える。
「オンライン行幸啓」の問題
ただし、「代替わり」時のような天皇と人々との関係性は未だ回復していない。それは、コロナ禍での模索に対する、メディアの報道と広報の問題も大きい。
専門家から話を聞く「ご進講」では、御所で白い布を被せた机に座り、天皇と皇后の二人が専門家と向き合う様子の写真が公表される。その構図はいつも同じで代わり映えがしない。しかもソーシャルディスタンスを取る必要があるためか、その机の幅は大きく、天皇・皇后と専門家にはどこか距離感があるように見える。
「オンライン行幸啓」も、画面を見つめる天皇と皇后の二人の様子が報じられる。その構図は常に変わらないゆえ、次第に代わり映えしないものとして人々から忘却されていく危険性を有している。
また、「ご進講」も「オンライン行幸啓」も取材方法に問題がある。宮内庁が公表した情報であったり、代表記者しか取材していなかったりするため、各メディアが一律の報道を展開している。記者は、直接の行幸啓の時に行っていたような方法で、天皇・皇后と人々がその場でどのような会話をしていたのかを取材することができない。また、天皇・皇后と会話をした人々へ後追いで独自に取材することもなされない。それゆえ、「オンライン行幸啓」の報道はどこへ行ってもどの社も同じような形になっている。これでは当初はものめずらしくて注目されたものの、次第に人々から飽きられてしまう。
しかも、こうした「ご進講」や「オンライン行幸啓」の様子が宮内庁のホームページに掲載されるのはしばらく経ってからで、情報がスピード感を持って流れていく現代社会に適合していない。
イギリス王室の積極的なSNS戦略
こうした問題を宮内庁も認識してか、2023年度予算で広報体制の整備のための人員増員を要求していることを公表した。小室眞子さん結婚の過熱報道も要因の一つだろう。また、イギリス王室が積極的なSNS戦略を採って、人々の支持を得たことも背景にはあると思われる。
とはいえ、まだまだ課題も多い。どういった情報をどう伝えるのか。週刊誌報道などに対する反論のみを流していては、「国民統合の象徴」である天皇の立場とは異なるものと思われる。また、もちろん様々な公務については知らせつつも、形式的な情報ばかり流していては、やはり次第に飽きられてしまう可能性はある。
2014年、当時の天皇と皇后の写真をツイートした女子高生が不謹慎と批判を浴びたことがあった。皇太子時代の天皇が外国訪問中に市民とのセルフィーに応じたこともある。もし宮内庁がSNSを展開するならば、こうしたツイートも積極的にリツイートし、親しみを持てる皇室のアピールを考える必要があるのではないか。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2023年の論点100 』に掲載されています。
(河西 秀哉/ノンフィクション出版)