《次官経験者たちは自らの所管分野に閉じこもる》閣僚のドミノ辞任に岸田官邸がなす術もなかった理由

日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関から、官僚の人事情報をいち早くお届けする名物コラム「霞が関コンフィデンシャル」。月刊「文藝春秋」2023年1月号より一部を公開します。
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菅政権時代は若すぎたけど……
「官邸崩壊」。第一次安倍晋三内閣のころ、よく耳にした言葉が15年の歳月を経て復活した。岸田文雄首相が率いる首相官邸の官僚たちは、文字通り「崩壊」している。
「秘書官が若すぎる」と評された菅義偉前政権とは180度変わり、岸田内閣は事務次官経験者をずらりと官邸に揃えた。嶋田隆政務秘書官(昭和57年、旧通産省入省)、秋葉剛男国家安全保障局長(同、外務省)、栗生俊一官房副長官(56年、警察庁)、森昌文首相補佐官(同、旧建設省)と実に4人もいる。「霞が関に睨みをきかせる」のが目的だった。
ところが、これは裏目に出た。出身省庁の官僚からすれば、次官経験者は煙たいうえに、実務から離れた「一丁上がり」の人。おのずと現役官僚は言うことを聞こうとしない。また次官まで経験した官僚は腰が軽いとは言えない。
しかも木原誠二官房副長官(平成5年、旧大蔵省)という官僚上がりの若手政治家が首相側近として控え、木原氏の眼鏡にかなわない政策は何も通らない状況となっている。
こうなると、次官経験者たちは自らの所管分野に閉じこもるようになる。旧統一教会問題の答弁変更や、閣僚のドミノ辞任になす術もなかったのは、こうした事情によるところが大きい。
第二次安倍内閣の今井尚哉元首相秘書官(昭和57年、旧通産省)は「役所には戻らない」と宣言し、政治的に立ち回ることができた。岸田官邸に、政局観をもつ人間は見当たらない。官邸崩壊はしばらく止まらないだろう。
紛糾する「防衛費」議論の“真の黒衣”は?
防衛力強化をめぐる議論が大詰めを迎えた。ポイントは今後5年間での大幅な財源確保と「反撃能力」のあり方だ。
前者は法人・所得税増税を軸とし、後者は現行法制度との矛盾を来さないよう国家安全保障戦略など防衛三文書改定に向けて最終調整する。「財務省主導の議論」と目されがちだが、一連のシナリオを描いた真の黒衣は「国家安全保障局」(NSS)の室田幸靖審議官(平成6年、外務省)だ。
NSS局長を務める秋葉剛男氏の下で舞台回しに奔走した室田氏は、これまで安保政策課長、総合政策局総務課長など、枢要ポストを歴任。脚光を浴びたのはNSS経済班長として「経済安保」政策を仕切っていた藤井敏彦氏(昭和62年、旧通産省)のスキャンダルが発覚したときだ。国会審議で藤井氏による外資系コンサルへの情報漏洩を匂わせ、藤井氏はあえなく引責辞職。藤井氏と近い自民党・甘利明前幹事長にも深手を負わせ、経済安保の政策過程から排除した。その力業で一目置かれるようになった。
外務官僚が黒衣役を果たすのは、防衛力をめぐる議論の成り立ちをたどれば当然とも言える。秋葉、室田両氏ら外務官僚からすれば米国との「あうんの呼吸」で日本の安保政策をアレンジするのは伝統芸だ。財務省の一松旬企画担当主計官(平成7年、旧大蔵省)らが精力的に各所へ「ご説明」に歩くのは、むしろ目くらましとなった。
彼らに比べて、やはり防衛省の力量不足は否めない。前防衛次官の島田和久内閣官房参与(昭和60年、旧防衛庁)が唱えた「国債を財源とした防衛費倍増」は一部議員以外、相手にされなかった。海千山千の外務・財務官僚を向こうに回して立ち回る役者は見えてこない。

「霞が関コンフィデンシャル」の全文は、「文藝春秋」2023年1月号と 「文藝春秋 電子版」 に掲載されています。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2023年1月号, 2023年1月号)