長引く新型コロナウイルス禍を背景に、小中高生の自殺者数が高止まり状態となっている。厚生労働省によると、令和2年は499人と過去最多。3年も473人と過去2番目の水準で、4年は11月までに425人に上った。コロナによる子供を取り巻く学校や生活環境の変化が指摘されており、国や支援団体は交流サイト(SNS)を利用した相談窓口の整備に力を入れる。10日、多くの学校で3学期がスタートした。
昨年12月下旬の水曜夜。チャットの通知音が響く―。女性(28)は自宅で静かに考えながら、《つらかったですね。何がしんどくさせるのか聞いてもいいですか?》と送った。すぐさま返信が返ってくる。《人間関係》《死ぬことを考えると楽になる》
女性はすばやく文字を打ち込み、返答を急ぐ。相談者の中には途中で返信が途切れることも多く、「相手にされていない」と感じさせないよう、1分もたたない内に返していく。その短い間にも相談者の「死にたい」という思いは否定せず、慎重に言葉を選ぶ。「自分だったら何と言われたいだろう」。そうやって思いを巡らせ、この相談者とのやり取りは2時間以上に及んだ。その間、常に通知音に耳を澄ませ、スマートフォンを手放すことはなかった。
女性は、NPO法人「国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」のボランティア相談員だ。昨秋から活動を始め「相談者が話したいことを安心して吐き出せる場でありたい」と話す。
センターでは、昨年4月から従来の電話相談に加え、若者が相談しやすいようオンラインのチャットで無料相談を受け付けている。毎週水曜の午後8時から午前0時まで、相談員3~5人がそれぞれ自宅などからオンラインで対応しているが、常に全員がメッセージをやり取りしている状態だ。
相談員の中には、過去に自身も自殺を考えたり、メンタルの不調を経験したりした人もいる。相談員のまとめ役としてセンターでやり取りを見守る理事長の北條達人(たつひと)さん(36)もその一人。相談員の活動を始めたのは、友人の自殺がきっかけだった。
「どうして救えなかったのか」。当時19歳の大学生。友人が悩みを深めていることに気づかず、声をかけてあげられなかった自分を責めた。同時に、自身も家族や友人を心配させたくない一心でその喪失感を抱え込み、「死んでしまえば苦しさから解放される」と自殺を考えるところまで追い詰められていた。
だからこそ、知り合い以外で思いを受け止める場の重要性を感じ、相談員の活動を始めた。大学卒業後は、しばらく中高の教員と相談員の活動を並行していたが、時間的に厳しくなり、教員を辞めて相談員の活動に専念するようになった。
いまは「誰にも胸の内を明かせなかった子が、チャットで本心を話すことで少しでも楽になってもらえれば」と願う。一方でそのためには、悩みを傾聴する技量を持った相談員を増やすことが必要だ。北條さんは「相談員はいくらいても足りない」と話す。
若者らの自殺防止対策として厚労省は平成30年からSNSを利用した相談事業を開始。相談数は開始から3年連続で増加し、令和3年度は約25万9800件に達した。担当者は「相談の受け皿をさらに確保した上で相談内容を分析し、解決のための施策につなげたい」としている。
子供たちのSOSをどうキャッチ?
大阪府内で11月上旬、門真市内の4階建てマンション屋上から交際中とみられる10代の男女が飛び降り、命を絶った。府内ではその1カ月前にも同府摂津市で高校生の男女が線路に飛び込み、電車にはねられて死亡する事案が発生している。
子供たちのSOSをキャッチするにはどうすればよいのか-。
スクールカウンセラーで日本自殺予防学会副理事長の阪中順子さんによると、大人の自殺は鬱(うつ)病や経済的な困窮が引き金となるケースが多いが、小中高生は成績の下落や、両親からの叱責など思わぬ理由から自身を死に追い込む場合がある。
「悩みを抱え込む子供もいる。いつもと違う表情や、食欲不振、寝つきが悪いなど体調の変化があれば気を付けてほしい」と語る。
新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は、子供のSOSのサインとして、投げやりな発言が多い▽体調不良や不眠を訴える▽大切なものを人にあげる-といったケースがあると指摘する。
また「周囲の同世代の友人たちが異変に気づいた場合、精神的に未成熟なため、逆に相手の不安感や死にたいという気持ちに影響され、引きずられる可能性がある」という。
このため碓井教授は、日ごろから子供に友人の異変を感じたり、自殺願望を打ち明けられたりしたら、信用できる大人に報告するよう伝えておくことが大切だと指摘。「大人は報告を受けて、過剰な反応をせずに注意深く、子供を観察してほしい」と訴えている。(中井芳野)
【相談窓口】
「国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」
06・6260・4343…金曜午後1時~日曜午後10時
「日本いのちの電話」
0570・783・556(ナビダイヤル)…午前10時~午後10時
0120・783・556(フリーダイヤル)…毎日午後4時~9時、毎月10日:午前8時~翌日午前8時
厚生労働省のホームページの「まもろうよ こころ」
各種団体へ、SNSやチャットでの相談窓口一覧