法律の改正や飼い主の意識の変化がきっかけで、全国で犬の殺処分ゼロを達成する自治体が相次いでいる。名古屋市もその一つ。2016年度以降、殺処分ゼロ(収容中に病気などで死ぬケースは除く)を継続してきた。犬を捕獲し、保護する名古屋市動物愛護センターが担う役割はいま、引き取り手のいない高齢や病気の犬の介護やみとりにも広がっている。
「おーい、てんちゃん」。柵越しに職員の島田一仁さん(53)が呼ぶと、ダックスフントの雄「てんちゃん」がよろよろとした足取りで寄ってきた。犬舎の入り口に掛けられたホワイトボードには名前の下に、食べた餌の量、散歩の時の様子や排便の回数などが細かく記録されている。
てんちゃんは田んぼでおむつをして転がっていたところを職員が見つけた。13~14歳の成犬で、てんかん発作があり、薬を飲んで症状を抑えながら約6年間センターで過ごしてきた。高齢の犬や病気がある犬は、担当職員が泊まり込みで最期をみとるケースもあるという。
センターの獣医師・高橋弘子さん(40)は「センターで過ごすのは引き取りの難しい犬で高齢犬も多い。低反発のクッションを置いたり、体位変換をしたり。高栄養の流動食を準備し、排せつの回数も多くて、人間の老人ホームのよう。寝たきりにしないために、自分で動く機会をできる限り確保している」と話す。
21年度中に飼い主が飼いきれず引き取られたか、逃げ出し捕獲されるなどしてセンターにやってきた犬は80匹。ほとんどは飼い主の元に戻るか、民間団体などを通じて譲渡されるため、現在センターで暮らすのはてんちゃんを含め5匹。飼育が難しい病気の犬や介護が必要な犬、警戒してかんでしまう犬などで引き取られるのはまれだという。
最近はテレビ番組で取り上げられることが増えたからか、「保護犬がほしい」という問い合わせも寄せられるようになり、成犬の譲渡も進む。ただ、センターでは飼い主との「マッチング」を大切にし、犬の性質や病気などを伝え、家族構成や体力的・時間的余裕などを細かく聞き取って、飼い主を選んでいる。
かつては見た目や子犬という理由だけで譲渡され、飼いきれなくなって殺処分につながった。処分を担当したことのある島田さんは「朝来て、処分機のスイッチを押す。その繰り返しだった」と振り返り、「連れてこられた時点で、犬たちは生きた心地がしなかっただろう」と話す。
二度と繰り返さないために--。センターではふるさと納税を活用し、施設内の犬猫の飼育や治療、譲渡会開催などに取り組んでいる。島田さんは「犬も人も楽しく過ごせるように」と願っており、飼い主が犬の生態や飼い方を学ぶことを勧めている。【田中理知】