震災経験のドローン部隊長 「28年前なら…」がれきの下、探した命

がれきの臭いと舞い上がるほこりの中、21歳の消防隊員は潰れた屋根と地面の隙間(すきま)まで顔を下げ、生存者を探し続けた。あれから28年。ドローン(無人航空機)で消火や救助を支援する部隊の隊長として、災害対応のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める最前線に立つ。「一人でも多く助けたい」。思いは、あの日と変わらない。
わずかな痕跡を頼りに
年明けの澄んだ空に、小さな機体がブーンと音を立てて垂直浮上した。神戸市北区の山あいにある市消防局の訓練施設。本部特殊災害隊の今井卯(しげる)司令補(49)は災害用ドローンの操縦について、若い隊員に指導していた。「高度30メートルで行ってみようか」。機体から送信される映像をモニター画面で確認しながら、飛行を見守った。
市が本部特災隊でドローン2機の運用を始めたのは2020年。赤外線カメラを使い、火災で外から見えない熱源や延焼経路を調べたり、山岳救助に使用したりした実績は30件を超える。「28年前だったらどう活用できたか、ですか……」。記者が問いかけると、今井さんは遠くを見つめるような目をした。
1995年1月17日の阪神大震災。今井さんは神戸市垂水区の自宅で家族の安全を確保した後、ひび割れた道を約2時間かけて歩き、所属する生田消防署(当時)の栄町出張所に駆け付けた。
昼過ぎに出動した同市中央区の宇治川商店街付近は辺り一面、古い木造住宅の1階部分が潰れ、路地も埋没していた。「たぶんここは人が住んでいた」。わずかな痕跡を頼りに、逃げ遅れた住民がいそうな場所をバールなどで掘り起こした。
誰も見つからずいったん引き揚げたが、夕方になって「がれきの下から音が聞こえる」と通報があり、再び出動した。「たたいてっ」と呼び掛けると、トントンと響いた。「早く出してあげないと」。隊員5、6人でそばにあった鉄パイプやとび口を手に、折り重なった畳や床板をめくり続けた。
日が落ちた頃、高齢の男女2人を救出した。1人は亡くなっていた。
神戸市消防局によると、市内で全半壊した家屋は12万2566戸、全半焼は7045戸に上った。震災後3日間の消防機関による救出人数は1464人(生存は704人)。
「市民の必死の通報に対し、『消防車はすべて出払っています。消防車が到着するまで近隣の方々の協力を得て、自分達でできることをしてください』としか答えようがなかった」。市消防局の広報誌「雪」には、当時管制室にいた職員の無念がつづられている。
災害前の画像と重ね合わせる
震災後、神戸市は小学校区単位で住民の自主防災組織を強化するとともに、災害対応のDXを推し進めている。20年には無料通信アプリのLINE(ライン)で市民から寄せられた情報を人工知能(AI)で選別し、確度の高い情報を地図に反映できるようにした。
今井さんがいる本部特災隊でも、21年からドローンによるオルソ画像(写真地図)作成の訓練を始めた。同じ場所を少しずつずらして空撮し、重なる部分を合成。全ての建物の位置を真上から見たように正確に把握できる技術だ。
21年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害では災害前の画像と重ね合わせて土砂の厚みや埋まった建物の位置を予測し、2次災害の発生危険度の判定などに役立てられたという。
阪神大震災当時、こうした技術があれば素早い救出ができたかもしれない。
月3回の訓練を続ける今井さんは「ドローンは発展途上だが、初動で正確な情報をつかめれば対応は大きく違う。勉強しないといけないことばかりです」と話す。
本部特災隊の3隊計15人のうち、消防隊員として震災を経験したのは今井さんを含め3人だけ。震災以降、今井さんはショルダーバッグにトレッキングシューズでの通勤を続けている。「両手が使えて、がれきが残る道も歩ける。もし何もツールがなくなったときでも足で稼ぐことはできますから」。28年前の教訓は色あせない。【井上元宏、喜田奈那】
全国の消防6割が導入
総務省消防庁によると、2022年に全国723消防本部でドローンを配備していたのは429本部(581機)と59・3%を占める。17年の6倍超と導入が進んでいる。
21年6月時点の累計活用実績は4051件で、火災原因調査1896件▽山岳・水難事故の救助861件▽火災702件▽自然災害200件――など。東日本大震災で被災した仙台市は22年、津波警報などの発令時に2機が沿岸部に飛んで避難を呼びかける運用を始めるなど避難誘導でも活用が広がっている。
一方、操縦者育成や人材不足を課題に挙げる消防本部も多い。消防庁が人材育成を進め、民間でも取り組みが広がる。
09年の豪雨災害で20人の死者・行方不明者が出た兵庫県佐用町でドローンスクールを運営する前田稔朗さん(76)は21年4月、民間資格「ドローン減災士」を創設した。現在は約150人の登録者を500人まで増やすのが目標。「被災状況の調査や物資の輸送などドローン減災士の役割は幅広い。大災害時、現場に派遣できるようなネットワークを作りたい」と話す。
国立研究開発法人の防災科学技術研究所(茨城県つくば市)はオルソ画像作成も含めた教育プログラムの普及に取り組み、神戸市も参加する。担当する防災科研の内山庄一郎特別研究員(44)は「災害は甚大化しており、オルソ画像などの専門家は圧倒的に足りない。自分たちの地域は自分たちで守るため人材育成が必要だ」と強調する。