搬送困難、4週連続最多
新型コロナウイルス感染の第8波が続く中、患者の救急搬送に長時間を要する「搬送困難事案」が4週連続で過去最多を更新し、15日までの1週間に全国で8100件を超えた。救急の現場は過酷な状況にあり、コロナ患者以外の受け入れにも影響が出ている。(大井雅之、石沢達洋)
「熱で息が苦しい」「家族が息をしていない」
東京23区の119番を受理する東京消防庁総合指令室(千代田区)では18日、職員約40人がひっきりなしにかかってくる通報の対応に追われていた。
職員はヘッドホン越しに聞き取った情報を目の前の端末にタッチペンで書き込んでいく。近くに設置されたランプは次々と「救急車要請」を示す緑色に点灯し、息つく暇もない。
藤野祐三・消防司令補(41)は「119番が鳴りやまない。このままでは、救える命が救えなくなる」と危機感を募らせる。
都内で昨年受理した119番は現在の集計方法になった2015年以降で初めて100万件を超え、約103万件に達した。救急車の出動数も最多の約87万件に上り、今年も17日時点で4万3652件で前年同期を2492件上回っている。「市民がコロナ禍に慣れ、病院や救急の業務 逼迫 (ひっぱく)を避けようという意識が薄れているのではないか」。救急要請の増加について、消防幹部はそう分析する。
総務省消防庁によると、急患の受け入れを病院に3回以上断られるなどした「搬送困難事案」は、全国の主な52消防本部で今月15日までの1週間に8161件に上り、過去最多を4週連続で更新した。
新型コロナの感染拡大による病床逼迫が背景にあるとみられるが、搬送困難事案のうちコロナの疑いがあったケースは29%にとどまる。コロナ患者だけでなく、他の病気や事故の患者の受け入れ先も見つかりにくくなっている。
名古屋市では今月13日未明、自宅で転倒して身動きが取れなくなった70歳代男性が119番したが、搬送先が見つかるまで約1時間40分を要した。救急隊員は27か所の病院に受け入れを要請したが、「病床が埋まっている」との回答が相次いだという。
千葉市でも先月半ば、足を骨折した疑いのある90歳代女性の受け入れ先が9時間近く見つからなかった。市消防局は「病院は発熱患者への対応に追われ、ほかの患者に手が回らないようだ」とした。
現場の救急隊員も十分な休息を取れず、疲労が原因とみられる事故も起きた。
東京都昭島市の国道で先月29日未明、患者の搬送を終えた隊員が運転する救急車がフェンスに衝突して横転し、男性隊員3人が軽傷を負った。運転していた隊員は17時間連続で出動しており、内部調査に「眠気に襲われた」と答えた。
都内では昨年、救急隊の1日あたりの平均活動時間が15時間半に上り、前年より約4時間増えたという。
東邦大の小林 寅● (いんてつ)教授(感染制御学)はコロナ禍での救急要請について、「社会全体で救急医療の維持に努めることが重要だ。重症化リスクの高い高齢者や命の危険がある人は通報をためらってはいけないが、基礎疾患のない若者や中年層で軽症の場合はまずかかりつけ医に相談するなど、救急車の適正な利用を心がけてほしい」と話した。(●は哲の異体字)
「転院」「不急」圧迫要因に
新型コロナ患者の増加に加え、消防の業務を圧迫する要因になっているのが、患者の転院時に救急車を用いる「転院搬送」や、不要不急の119番だ。
総務省消防庁によると、2021年の全国の救急出動(約619万件)のうち、転院搬送は8・4%(51万8483件)を占める。同庁は16年、「緊急性の乏しい転院搬送は本来、消防機関が実施するものではない」と都道府県に通知した。だが、その割合はほぼ横ばいで、神奈川県内の消防局に勤める男性は「コロナ禍で出動が増える中、転院搬送への対応が足かせになっている」と明かす。
一方、不要不急の119番は「家の鍵をなくした」「エアコンを付けてほしい」といった内容で、東京消防庁では昨年受理した通報のうち約2割に上った。各地の消防は相談ダイヤルの活用などを呼びかけている。