岸田首相が「今春」と表明した新型コロナウイルスの「5類」への移行を大型連休明けの5月8日にすると決断したのは、医療提供体制が手薄な連休中に感染が広がる事態を避けるためだ。円滑な移行を慎重に探るが、公費負担のあり方やマスク着用基準の見直しなど検討課題は山積している。
「医療体制の万全な移行や自治体などによる準備に3か月程度を要するとの専門家の意見を踏まえた」。首相は27日の新型コロナ対策本部会議でこう述べ、5類移行への備えに全力を尽くす考えを強調した。
政府関係者によると、首相は26日夜の加藤厚生労働相ら関係閣僚との協議でも「連休前」か「連休後」かで揺れていた。首相は「早いほうがいい」と4月末の移行に意欲を見せたが、加藤氏や後藤経済再生相が連休後の移行を主張した。
準備期間の確保に加え、昨年12月に「ゼロコロナ」政策を解除して感染が急拡大した中国の例もあった。議論が紛糾した末、最終的に首相が「完璧な準備をしよう」と引き取り、「連休後」で落ち着いた。4月は、自治体が統一地方選の事務作業に追われる事情も考慮した。
5月8日は、同19日に広島市で開幕する先進7か国首脳会議(G7サミット)を見据えてもギリギリのタイミングだった。
首相は3年にわたるコロナ対策に大きな区切りを付けることを決断したが、移行までの3か月余りの間に万全の態勢を整える必要がある。
医療費の公費負担や医療体制については、3月上旬までに関係者間の合意を取り付けた上で、段階的な縮小に向けた工程表を提示する。公費負担の縮小に伴い、患者の窓口負担が高額とならないよう、治療薬の価格の引き下げなどを検討する必要もある。
幅広い医療機関で受診できる体制を整えるため、発熱外来の経験がない診療所での感染対策や発熱外来に対する診療報酬上の優遇措置の見直しも検討する。
ワクチン接種費用の公費負担の見直しを巡っては、自己負担が生じることで接種率が低下する恐れもあることから、高齢者など重症化リスクの高い人には、将来にわたり公費負担を残す案もある。
マスクの着用は個人の判断に委ねることを基本とするが、公共の場でのトラブルを避けるため、着用が効果的な場面を明示する方針だ。
感染状況も予断を許さない。政府は「危険性の高い変異株が出現する可能性はゼロではない」(厚労省幹部)とみている。政令で新型コロナを指定感染症に戻し、状況に応じて強い措置を講じられる体制を整えておく方針だ。
安倍政権や菅政権では、新型コロナの感染者が増えると内閣支持率が低下する現象が見られた。岸田内閣の支持率は30%台と低迷しており、感染状況の悪化がさらなる支持率の低下を招く事態は避けたい考えだ。