広域強盗事件の捜査をめぐって、マニラの入管施設に収容されている渡辺優樹容疑者について、日本の警察から身柄引き渡しを求められたフィリピン政府が応じる方針であることが29日に明らかになった。同容疑者は指示役の疑いがある「ルフィ」を名乗っていた可能性がある。それにしてもフィリピンの収容所にいながら、なぜ実行役を遠隔操作できたのか。その裏には卑劣極まりない犯行を実行させた“恐怖支配”があったようだ。
ついに日本に送還か――。一連の連続強盗事件の主犯格で指示役だったルフィとみられる渡辺容疑者は、日本などで特殊詐欺に関与したとして国際手配され、2021年4月にフィリピンの捜査当局に入管法違反で逮捕。現在は同国のビクタン収容所に収容されている。
しかし、同収容所では賄賂が横行。渡辺容疑者はこれまでの犯罪で得たカネを使ってエアコンの効いたVIPルームで優雅な生活を送っていたばかりか、スマートフォンを駆使して集めた日本の実行役を指揮し、強盗を主導していたとみられる。
今回フィリピン政府は身柄の引き渡しを強制送還という形で行う方向。ただ、これまで渡辺容疑者は現地の知人にカネを払って同国で刑事裁判を起こさせることで、日本への帰国を意図的に免れてきたと言われる。事件が取り下げられれば送還となるが、どうなるのか。
国際犯罪組織や裏社会に詳しいジャーナリストの丸山ゴンザレス氏は「フィリピンは東南アジアの中でも賄賂が通用しやすい社会だ」と指摘。早期の強制送還が実現するかはフィリピン司法当局の判断次第とした上で、「海外で刑事事件を起こして帰国を先延ばして免れるのはよくある手口。ただ、ここまで大きく報じられると、カネをもらって刑事裁判を起こすように依頼された側も保身で腰が引けてくるだけに、あっさり裏切られて裁判が取り下げられてもおかしくない」と分析する。
それにしても海外の収容所の中から一連の連続強盗事件の実行役たちを指揮していたとは驚きだ。SNSなどの“闇バイト”に応募して、聞かされた内容が重犯罪の強盗となれば離反する実行犯がいてもおかしくないが、昨年10月に東京・稲城市で起こった強盗致傷事件で逮捕された実行犯の一人は、「指示役に事前に身分や家族構成を伝えてしまい、家族への危害を恐れてやめられなくなった」と供述。そこには渡辺容疑者の“恐怖支配”が見て取れる。だが、それだけではない。裏切り者に対する拷問を行い、その動画を実行役に見せることで恐怖支配をしていた可能性も浮上しているのだ。