ウクライナ避難民250世帯以上を戸別訪問 阪神大震災の教訓胸に心寄せ、耳を傾ける

ロシアによる軍事侵攻で祖国を追われたウクライナ避難民に、心を寄せ続ける日本人女性がいる。日本YMCA同盟の横山由利亜さん(53)が、この間に戸別訪問した避難民は250世帯以上。避難生活が長期化する中、大小さまざまな困りごとに親身に耳を傾ける。その胸中には28年前、自らの故郷を襲った阪神大震災の復興支援活動で味わった後悔と教訓があった。
ウクライナ侵攻から間もなく1年を迎える2月1日、横山さんの姿は東京都北区の都営団地にあった。戦禍の首都キーウ(キエフ)を抜け出した高齢夫婦が昨年4月から身を寄せていた。
「家の前に爆弾が落ちるまでは日本に来るなんて考えもしなかったのよ」。妻(72)が現地での壮絶な体験を真剣な表情で訴え、横山さんは「うんうん」と相づちを打つ。
この団地に避難民は夫婦のみ。都内で暮らす娘家族を頼っての来日だったが、同居はできず、「両親が孤立していないか心配だ」という娘の依頼で、横山さんが初めて駆け付けた。
夫(72)が「心臓の持病が悪化していたけれど、現地は混乱していてとても入院なんてできなかった。日本に来てから手術したんだよ」と割って入る。「医師と言葉が通じなくても手術は怖くなかった?」と聞く横山さんに、夫は手ぶりを交えて「全然だよ」とおどけてみせた。
横山さんは「友達のように、いつでも声をかけてほしい」と笑顔で伝えた。
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国内での避難民受け入れに伴い、日本YMCA同盟は入国手続きや住居確保の手伝いを開始。執行理事の横山さんは支援プロジェクトの責任者に就いた。昨年7月に都と業務提携すると、都内の避難民の戸別訪問に乗り出し、横山さんが一手に引き受けている。
1回に約2時間。相手が心を開くまで根気強く付き合う。祖国での辛い体験や避難生活の長期化に心身のバランスを崩す避難民は少なくなく、「訪問先では相手に泣かれてしまうことがほとんどだ」という。
避難民が自宅にこもりがちになっていたところ、今冬の暖房費高騰が原因で同居する身元引受人の日本人との関係がこじれ、横山さんが仲裁に入ったこともある。横山さんは「滞在の長期化を想定していないことによるトラブルが増え始めた」と打ち明ける。
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横山さんが相手に寄り添い、話を聞くことにこだわるのは、出身地・神戸を直撃した阪神大震災の復興支援活動で味わった忘れられない思いがあるという。
都内の大学を卒業後、日本YMCA同盟に入って約2年。学生ボランティアらを連れて被災した高齢女性宅を訪れた際、学生の一人が「話し相手を欲しがっているようだ」と報告してきたのに、横山さんは片付け業務を優先し、話をよく聞かずに離れてしまった。
「そのことがずっと心に引っかかっていて…」と横山さん。業務より話を聞くことの大切さに気づき、悔いが残った。以降、東日本大震災や熊本地震などの現場では被災者の言葉に耳を傾けることに専念した。
その真摯(しんし)な姿勢は、ウクライナ避難民の心も捉えている。都の担当者は「『心配だ』といえば、すぐ様子を見に行ってくれる。相談の中から課題をしっかり整理してくれるのでありがたい」と感謝する。
まだ訪問できていない避難民もいる。軍事侵攻の早期終息を祈りつつ、地道な活動を続けていくことに横山さんの決意は固い。「少しでも多くの避難民の話を聞き、心のよりどころになれればいい」(外崎晃彦)