「漫画貫き通した人生」松本零士さん死去、育った北九州でも追悼の声

巨星が落ちた――。松本零士さんが育った北九州市などでは、ゆかりの人たちが別れを惜しんだ。
松本さんの弟で早稲田大名誉教授の松本將(すすむ)さん(78)=同市若松区=によると、松本さんは戦後移り住んだ北九州・小倉で触れた文化に触発されて漫画を描き始めた。日ごろから「小倉が自分を育ててくれた」と愛着を語っていたという。折に触れ帰省し、2012~21年に北九州市漫画ミュージアム(同市小倉北区)の初代名誉館長を務めるなど「北九州の活性化になれば」と協力を惜しまなかった。將さんは「漫画を貫き通した良い人生だったと思う」と振り返った。
福岡県立小倉南高2年生の時に同級生だった小木野一(はじめ)さん(85)=同市小倉南区=は「卒業したら上京して漫画家になる」と話していた松本さんをよく覚えているという。「運動会では僕が文章を、彼がイラストを担当して進行状況を伝える速報を配った。『銀河鉄道999』のヒロイン、メーテルの顔は、当時彼が描いていた女の子そのもの。まだまだ元気で頑張ってほしかった」と悼んだ。
漫画ミュージアムの表智之専門研究員(53)は「松本先生あってのミュージアム。一から十までお世話になりっ放しだった。訃報を聞き、寂しくて悲しいと同時に感謝の思いがあふれてきた」と語った。市内のマンホールのふたなどに作品のキャラクターを使っていいか相談すると「北九州のためなら」と常に快諾してくれたという。館内では松本さんの業績や作品を紹介している。表さんは「普遍的な作品が多い。次世代の作家に継承する役目も託されたと思っている。微力ながらしっかり伝えていきたい」と話した。
北九州市には松本さんの功績をたたえ、JR小倉駅や北九州空港に代表作の登場人物のモニュメントが建てられている。
JR小倉駅北口には「銀河鉄道999」の登場人物「メーテル」と「鉄郎」の銅像がある。近くにいた鹿児島県出水市の打上義巳さん(69)は「アニメを何度も見返してしまうくらい引き込まれる作品だった。生命や欲、他人との関わりなどを、宇宙という空間の中で表現する方だった」としのんだ。
同駅の新幹線改札口近くには、銀河超特急999号の「車掌」のモニュメントと共に松本さんと「999」を紹介するコーナーもある。北九州市内の70代女性は「幅広いジャンルに精通され、特に未来や戦争についての提言が多かったように思う。砂津など小倉の地名が出てきたり、関門トンネルを作品のモチーフにしたり、地元を覚えていてくれてうれしかった」と懐かしんだ。
松本さんの父は戦時中、福岡県の朝倉市、筑前町、大刀洗(たちあらい)町にまたがる陸軍大刀洗飛行場の隊の操縦士だった。松本さんは19年、筑前町立大刀洗平和記念館でのトークショーで「父の遺伝子を受けて飛行機マニアになった。大刀洗と久留米は心と命の古里です」と語っていた。記念館の岩下定徳事務長(62)は「館に九七式戦闘機の車輪を寄贈されるなどいつも応援してくださった。トークショーでは『人は死ぬために生まれてくるのではない。生きるためだ』という平和へのメッセージを頂いた。残念でならない」と惜しんだ。
20日に就任した北九州市の武内和久市長は、記者会見で「日本の誇る偉大なアーティスト、クリエーターで巨星。北九州市の誇る偉人として、市の文化の発信に貢献いただいたことにお礼申し上げたい」と述べた。
福岡県の服部誠太郎知事は「『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』をはじめ、数多くの作品で世界中の子供たちに夢を与えてくれた。ご冥福を心からお祈り申し上げます」とのコメントを出した。【青木絵美、伊藤和人、林大樹、桑原省爾、松田栄二郎】