政府は5月8日から新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を「2類相当」から「5類」に移行する。経済界などからは歓迎の声もある一方、ウイルス流入食い止めに奮闘してきた空港検疫の現場からは、戸惑いの声も上がっている。中国からの入国者を対象にした水際対策の強化は続いているが、検疫関係者からは実際は「〝ザル〟状態」との告発も。5類移行で状況が悪化しないかという懸念も聞かれた。
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「新型コロナを5月以降に検疫でどう扱うのか、現場にはまだ伝えられていない。新型コロナに関する検疫の全面廃止の可能性もあるかもしれず、大変気になっている」。こう口にするのは関東にある国際空港で勤務する検疫関係者だ。
厚生労働省では「5類移行で検疫がどう変わるのかはまだ分かっていない。新型コロナが検疫感染症から外れるのは確かだが、それをもって緩和の方向になるかということも、現段階では申し上げられない」と話す。
新型コロナを巡って、政府は昨年末から、感染が爆発していた中国からの入国者に対し、検疫ではワクチン接種証明書の有無にかかわらず、出国前検査証明書の確認と到着時のPCRや抗原定量検査を義務付けている。
それでも、前出の検疫関係者は「現在の空港検疫はすでにかなりの〝ザル〟状態」と明かす。理由は中国以外からの入国者への対応だという。
「欧米など中国以外からの入国者には空港の検疫所では検査もしていない。新たな変異株が米国で広がっているが完全にスルーだ」と打ち明ける。米国では現在、新規感染者の約8割がオミクロン株派生型「XBB・1・5」と推計される。「日本では入国者にワクチン接種証明書か陰性証明書を見せるよう求めるだけ。3回ワクチンを接種しても再感染する人はいるうえ、この新株にはワクチンの有効性も極めて限定的といわれている」。有症状者の発見は自己申告と、発熱者のサーモグラフィーによるチェックに頼っているのが検疫現場の実情で、「それも事前に解熱剤を服用されていたら分からない」と説明した。
入国者が提示するワクチン接種証明書などについても「海外からの搭乗客に『こんなものは金を出せばいくらでも買える。意味があると思ってやっているのか』とうそぶかれたことは何度もある」。日本政府は公的機関で発行されたことや、日本語か英語でワクチンの接種日や回数などが記載されていることを条件にしているが、「われわれには最終的に本物か偽造かまでは分からないし、確認する時間もない」と訴える。