今年のNHK大河ドラマは『どうする家康』ですが、それに負けないくらい話題沸騰なのが『どうする信千世』です。
うっかりこの騒動、いや、ドラマの序盤を見逃したという方にこれまでのダイジェストをお送りします。
まず、主役は岸信千世(新人)が務める。
信千世は岸信夫前防衛相の長男として生まれた。フジテレビ記者を経て、父の秘書を務めていた。しかし信夫が病気のために議員辞職することを発表すると、信千世が後継を目指すことを表明したのである。
信千世が表明した「志」は…
ドラマなら大事な見せ場であり、視聴者の心をつかまなければいけない。さっそく信千世は2月から政治活動のためにHPを立ち上げた。そこで高らかに表明した志とは何か。トップページに出てきたのは「家系図」だった。
信夫の祖父「岸信介」元首相の名が目立つ場所にデンとあり、その横に「佐藤栄作」元首相(岸信介の弟)、さらに信夫の兄の安倍晋三元首相、その父の晋太郎元外相、晋三の祖父で衆院議員だった寛の名があった。国会議員6人が並ぶ家系図を掲載し、それらの人物に連なるのが自分(信千世)であるというアピールをかましたのであった。
これが『どうする信千世』の初回放送である。タイトルは「わしの家」。奇しくもNHK大河ドラマ『どうする家康』第7回のタイトルと同じだった。
しかし事態は急変する。
《この家系図について、ツイッターなどで「政治を『家業』としか考えていない証左」「家系図が一番のセールスポイントに見える」など批判の投稿が相次いでいた。》(朝日新聞デジタル2月13日)
とんでもない批判が沸き起こったのだ。
ああ、どうする信千世!
SNSで一揆が勃発
これが第2回放送のタイトル「大炎上でどうする!」だ。またもや『どうする家康』の第8回放送「三河一揆でどうする!」とそっくり。しかも内容まで酷似している。まずNHK側のあらすじを見てみよう。
《本證寺から年貢を取り立てようとする家康に対し、一向宗徒が三河各地で一揆を起こした。》(『どうする家康』第8回)
信千世に一揆を起こしたのは一向宗徒ではなくSNS宗徒だったが、思いもよらず民衆から一揆を起こされるという展開はそっくりだった。
家系図の致命的な欠点
しかも問題は根深い。信千世の家系図には致命的な欠点があった。男性の名前ばかりが載っていて女性の名前が無かったのである。これがいかに異様なことか? 念のためにNHKの『どうする家康』のHPを見てみよう。
「徳川勢(家康の家族)」という相関図には、家康の親として「松平広忠」「於大の方」とあり、それぞれ「家康の父」「家康の母」と紹介されている。当たり前だが女性の名前がある。つまり信千世のは家系図でさえなく、やっぱり国会議員だらけの家柄自慢に見えるのだ。しかもそこから透けて見えるのは男性優位の日本の政治状況そのもの。
このような批判や論議が目立つと物語はまたも急展開を見せた。なんと信千世はHPの「家系図」を削除してしまったのだ。13日午後に削除され、その後、HP自体が「メンテナンス中」として閲覧できなくなったのである! えーーー!
家系図をいきなり削除、その理由は?
日刊ゲンダイによれば、信千世氏の事務所に問い合わせると、担当者はこう回答した。
「サイトから家系図が消えていることは把握している。ただ、なぜ消えたのか、13日時点でコメントできることはない」(日刊ゲンダイデジタル2月14日)
家系図がなぜ消えたのか?『どうする信千世』はサスペンスドラマになってきたのか!?
そのあと信千世側は「閲覧の関係で不具合が出ており、修正のため一旦停止している」と説明(毎日新聞2月20日)。
ふ、不具合が出ている? 本当なら大変だ。これが第3回放送「どうするメンテナンス」であった。
このように『どうする信千世』はここまで何の爽快感もないから困る。今後の展開も非常に不安になる。主人公が「メンテナンス」だの「修正のため一旦停止している」だの、新人で若い割に言い訳だけはプロ政治家並みというのも爽快感がない。これからどうするのだろう信千世……。
有権者が持つ「悪癖」
さて、私はここまで岸信千世のことをあえて大河ドラマ風に書いてきた。
ここで全てをひっくり返すが、そもそも我々有権者の側に政治家の家系をあたかも戦国時代の「〇〇家」のように見てしまうという悪癖はないだろうか。もしくは歌舞伎役者の世襲のような見方をしてしまうノリはないだろうか。歌舞伎役者でないなら「○○さんの家の商売は2代目が継ぐのだろうか」みたいな目で政治家を見てしまわないだろうか。
政治家は武将でもないし歌舞伎役者でもないし近所の2代目でもない。選挙で選ばれる人たちである。そこをちゃんと考え直さないと政治家一家を甘やかすことになる。今回のように向こうから「家系図」を真っ先に披露してくることになってしまう。こちら側が政治家一家を話題にするとしたら武将の名家みたいな振る舞いをネタにするぐらいにしておくべきだろう。
「家系図」騒動、本当のヤバさ
今回の騒動を見ていて感じるのは、信千世側は何が批判されているのか今もわかっていないのでは? というヤバさである。慌てて家系図を削除したがどこが問題だったのかピンときていない可能性すら感じる。
信千世側からすれば「だってニュースターのことを詳しく知りたかったでしょ」「待ちに待っていたのはあなたたち有権者でしょ」と、今も不思議そうに思っている気がする。「どっちみち政策は関係なく票を入れるでしょ? だからお披露目をしてあげたのに」とも。
政治家をたくさん輩出している家系から立候補しても、その人自身に政治家の資質があるのかはまだわからない。言葉や考えを聞いてみてから判断しても遅くはない。それが選挙というシステムだ。
今回の「家系図」問題ってまず問われるのはどうする信千世より、どうする有権者!? なのではないでしょうか。
(プチ鹿島)