LGBT(性的マイノリティ)の知られざる「老後2000万円問題」 性的マイノリティにも高齢期がある

この春、日本中をわかせた「老後2000万円不足」問題。金融庁の審議会がまとめた報告書を、はじめはドヤ顔で自慢していた麻生財務大臣が、国民の反発をまえに急に「受け取らない」と言いだしたり、選挙前ということもありにわかに政局化しました。それ以上に2000万円という数字が妙に実感があるのか、国民の強い関心を呼びました。はじめに5千万円必要と言われていたら、もうみんな諦めるでしょう?
ちょうどこの時期、仲間と運営するNPO法人『パープル・ハンズ』(http://purple-hands.net)では、7月初め開催の「セクマイ(セクシャルマイノリティ)×老後 あんしん講座」の第1回「老後はコワイ?ーー老後のお金と住まい」の受講者受付中でしたが、30人の定員が2週間前に満席となったのは思わぬ余波でした。

パープル・ハンズは、「性的マイノリティの老後を考え、つながるNPO」。子ども・若者支援や企業研修、同性婚など性的マイノリティ(LGBT)をめぐる活動はいろいろ増えましたが、性的マイノリティの中高年期と「暮らし・お金・老後」をテーマに据えた活動は、まだ少ないかもしれません。
同性婚も、ましてや性的マイノリティに関する基本的な人権法制もない国で、性的マイノリティ自身が老後も安心して暮らすためには、まずは現行の法制度をよく研究して、使えるものは使うことが大切、と私は考えています。

よく性的マイノリティ、とくに同性カップルは、病院でパートナーに会えない、相手が死んでも相続もできない、と言いますが、某国営放送の番組ではありませんが、「今こそすべての日本国民に問います。医療の意思表示書や遺言も書かず、やれ病院で会えないだとか、相続できないなどと言っている当事者のなんと多いことか」。自己決定の原則を武器に、法的効力のある書面を作成して備えることで、できることもいろいろあるのです。
実際、性的マイノリティ当事者が訴える「生きづらさ」は、社会の理解不足や当事者を想定しない制度の不備などによるところも大きいのですが、同時に当事者の側も、情報や制度リテラシーの不足から、みずからできることをやらずに、しなくてもいい苦労をしている場合もあります。
パープル・ハンズでは、まず法律や制度、お金についての合理的な知識をしっかり知ろうという趣旨で、講座など「学びの場」活動を柱の一つにしています。
その基幹講座が「セクマイ×老後 あんしん講座」。2010年に前身である「同性愛者のためのライフプランニング研究会」をスタート、2015年からは一般財団法人ゆうちょ財団さんの金融相談等活動助成をいただいて、もう今年で5年目です。
今回は、「セクマイのための」と称してお話している、お金講座の概要をご紹介しましょう。

今年の7月に開催された講座では、老後のお金と住まいがテーマだっただけに、さっそくこの報告書から考えてみました。
この報告書では、65歳の夫と60歳の専業主婦で、収入が年金など20.9万円、実支出が26.4万円。差額5.5万円を30年積み重ねると約2000万円足りないから、現役時代から投資などで「資産寿命」を延ばす心構えを持て、と国民に呼びかけました。
この収支額は、総務省統計局の家計調査(平成29年)から「高齢夫婦無職世帯」(参照はリンク先の27ページから)の数字を使っています。
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しかし、毎月5.5万が不足するなら、なぜ働かないのでしょう。2人がもう働きにも出ず、年金だけで30年、顔を見合わせながら暮らすというのです。私なら3日でウンザリ(笑)。しかも、支出額は60歳のときも80歳のときも変わらない。人間80にもなれば、ものも食わない、服も買わない、ということはないけれど(笑)、支出のスタイルもずいぶん変わってくるはずです。
これはあくまで平均値であり、人それぞれ収入額も支出も千差万別、「平均値」で暮らす人はどこにもいません。この報告書、もう少していねいに考える必要がありそうです。
とはいえ、老後は現役時代よりは収入が減るのは確かです。そもそもお金が足りないならどうするか。これはセクシュアリティにかかわりない、万人共通の課題でしょう。
65歳から30年、遊び続けるのは「胆力」がいります。お金が不安なら、現役中のようにフルとはいきませんが、75歳ぐらいまでなにかしら仕事を続けませんか?
老後になっても働くのかぁ、と考えれば気が滅入りますが、収入補填はともかく、社会参加、健康維持にボケ防止です。私の知人の父上は、死ぬ直前まで働いて、入院3週間で亡くなったそうですが、介護不要・ボケ無しのピンピンコロリ。これを、彼は死ぬまで働き続けた人生だった、と哀れみますか?

いま、実年齢は8掛け。70歳でも実態は50代なかば。75歳でようやく定年の60歳と考えてよさそうです。すごい老人に見えるサザエ一家の波平は、55歳が定年の当時、まだサラリーマンをしています。50代前半という設定(え、いまの私と同年?)。これも実年齢のイメージギャップの一例でしょう。
そのうえで、「老後」がいつからかは人それぞれですが、出発点をできるだけ高くしておくことは大切です。その点で報告書は間違ってはいません。でも、投資ではなく、まず貯金をしましょう(そもそもこの報告書は、投資推奨のアベノミクス応援歌という側面もあります)。
貯金がない、貯金ができないーー相談でもそんなお声をよく聞きます。月々の収入を好きに使い、残りを貯金しよう、では無理でしょう。はじめにお金を取り除けて、そのお金ははじめからなかったと思うことです。
40歳・貯金ゼロというかたも、給料から毎月3万円、ボーナス2回で7万円ずつ、年50万円の貯金を、会社の財形積立や振込先銀行での定期積立で強制的に積み立てます。60歳まで20年続ければ、1千万円(+利子)になるではないですか。年金とべつに1千万円の貯金があれば、ずいぶん心強いでしょう。
年50万円が難しいかたも、これは収入の1割を貯金しようという趣旨です。10年続ければ年収分が貯金できます。貯金1割、税金1割、社会保険(年金、健保)1割、残りの7割で生活と楽しむことを考えましょう。
その前提として、自分は月いくらあれば暮らせるか、把握していますか?
お金の使い道には3つある、そうFPの教科書などでは解説します。「暮らすお金」「楽しむお金」、そして「備えるお金」です。
暮らすお金は、家賃(ローン)、水光熱費、食費、電話、衛生(理髪やクリーニング)、定期通院の医療費など、生きていくのにどうしてもかかる固定費です。家族同様のペットも、固定費かもしれませんね。
でも、生きるためだけに稼ぐわけじゃない。人生を楽しむお金も、大切な使い道です。趣味・教養、恋人や友人との会食、レジャー費などなど。
最後の備えるお金は、将来や万一時のための貯金や保険。
そして、はじめに備えるお金を取り除けて、残りの範囲内で、暮らし、楽しむ。足りないからといって備えるお金を削ったり、ましてや借金をしてまで楽しむことは危険ーーという、タネも仕掛けもない話です。お金は、結局、「ある以上、使うな」ということですね。どこかにお金をある以上使いまくっている国があって心配なのですが……。
ちなみに、おなじくFPの教科書では、人生に備えるべきお金として、「住宅資金」「老後資金」、そして「教育資金」をあげます。一部の場合を除いて子どもがいない性的マイノリティの場合、「教育資金」の備えは不要。基本的に余裕があるはずです。これはおひとりさまの場合も同様。そのぶん老後資金への備えを考えましょう。

ここでちょっと余談です。
さっき収支の把握という話をしましたが、3、4か月家計簿をつけてみるのはいかがでしょう。そのさいレシートをもらっておいて、金額だけ記入しておけばいいのです。
遊びだと思って聞いてくれていいのですが、みなさん、昭和の現金時代に戻りませんか? 私は一切カードを持ち歩かない主義です。電子マネー関係はそもそも持っていません。コンビニでも切符でも、現金で買います。現金を払うとなると、いくら使うか実感をもってわかりますし、たとえわずかでも払うときには、これ本当に必要かな、と手が止まります。
クレジットカードもキャッシュカードさえ家に置いたままで、出先で衝動的に大きな買い物もできません。必要なら、よく考え、予算を組み、あらかじめお金をおろして買いに行きます。
世はあげてキャッシュレス推奨ですが、「守旧派」の私は現金払い。夜、財布を整理しては1円玉、5円玉を取り除き、半年ごとに郵便局へ持っていくと、なんと飲み会一回分ぐらいにはなっているものです。
資産寿命を延ばせと言われても、お金を増やすには、「収入を増やす」「支出を減らす」「お金自身に増えてもらう」の3つしかありません。収入が増えないなら、無駄な使い方や非合理な支出を減らすという点で、まずは毎度おなじみ、保険の検討があがります。
性的マイノリティは基本、子どもなし。パートナーもたいてい共稼ぎ。自分が死んでだれもお金に困らないなら、そもそも生命保険は不要でしょう。また、医療保険も、加入義務である公的健康保険で、10万円あれば手術も入院もできると覚悟すれば(高額療養費制度)、あえて入る必要はないかもしれません。
むしろ、病気をしない(痩せる、節酒、禁煙)、早期発見・早期治療(健診には行く)です。保険料は、その分を貯蓄に回しましょう。私はゲイ当事者には、よけいな病気をもらわないという点でセーファーセックスも節約術だと説いています。

老後のお金は貯金とともに、年金制度をきちんと知ること。年金だけでは暮らせませんが(これ前提)、年金は死ぬまでもらえる国営の終身保険。こんな有利な金融商品は民間にはありません。少しでももらえる額を増やせるよう、納付漏れしない、また場合によっては繰り下げ受給(70歳で42%増し)など、制度を正確に理解しましょう。
上乗せを検討するなら、民間の保険商品ではなく、国民年金基金(自営業の人)や確定拠出年金(イデコ)など、節税効果のあるものがお勧めです。
今回の講座では身近なお金や制度を理解でき、普段以上にアンケートの記述が多かった
パープル・ハンズの講座では、「マネープラン」などの言葉から想像される富裕層向けの内容ではなく、中下層の収入を基準に、どう生き延びるかを、具体的なお金回しの情報とともに考えています。住宅も、性的マイノリティの場合、子育てもなく、1人か2人で住むことから、むしろ賃貸推奨派(災害や相続など持つリスクも考え)。
こう見ると、保険は入るな、家は買うな、投資はやめとけ、まずは貯金だ……あまりアベノミクスのお役に立ちませんが、もちろん余裕のあるかたはこれをベースにさまざまな金融商品の上乗せを考えていただければと思います。
こうして説いてくると、ことさら「性的マイノリティのためのお金セミナー」などと身構えずとも、おひとりさまや子どものいない事実婚のかたにもそのまま当てはまる話だとわかってくださるでしょう。実際これまでも、女性センターで非正規就労女性向けの生活講座や、稼ぎが若い時期に偏りがちなホストの人たちへのマネー講座などで、講師を勤めたこともあります。
経済的に深刻に困っているかたには、現在、生活保護へつなぐなど貧困支援の活動が広がっていますが、けっして余裕はないがさりとて生活保護ではない(不安定だが定収があり、わずかだが貯金もある)ぐらいがいちばん苦しいのでは、と思っています。そうした層への情報提供と、共助の場の運営で応えるのがパープル・ハンズの役目かなと思っています。
2010年代以後、急に経済誌から注目された「LGBT」や関連書籍。だが、「巨大市場」との呼び声にとまどう当事者は多い
近年のLGBTブームで、可処分所得が高くセンスが良く消費に旺盛、巨大なLGBT市場という「ブルーオーシャン」としてにわかに高まった注目に困惑を感じている当事者も少なくありません。「お金」を考えることは、金額という上限のなかで等身大の自分を見つめる重要な契機となるのではないでしょうか。

「死ぬまでお金はもつのか」という長期的ライフプランの視点は、とかく若さ・キラキライメージの性的マイノリティにも高齢期があるという、あたりまえの事実を思い出させ、自分を冷静にしてくれます。
講座後の交流会には今回も20名近い人が残り、交流会だけ参加の人も加わり、ふだんは話す機会の少ない老後や、さらには長いパートナーシップや人生観について、「老若」で花が咲きました。20代の若者たちには、60代の性的マイノリティの先輩たちの言葉は、自分もこうして生きていけばいいんだという刺激や自信になったようです。
講座でお伝えする情報とともに、こうして参加者どうしが世代を超え、生身の生きざまから学び合う「ピエアエデュケーション」こそが、この講座やパープル・ハンズの目指すものだと認識しています。