ニュース裏表 平井文夫 岸田首相は本当にウクライナに行けるのか? 外務省高官が最も心配する首相の「身の安全」問題 「普通の国」がやるべきこと

米国のジョー・バイデン大統領が先月20日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問したのを受け、日本では「G7(先進7カ国)首脳で行ってないのは岸田さんだけ」という、いらだちの声が上がっている。岸田文雄首相はキーウに行けるのか。
外務省の人に話を聞いた時には、キーウ行きをかなり嫌がっているようだった。その理由の1つが「国会の問題」だったのだが、これはどうやらクリアになった。
当初、立憲民主党の泉健太代表が「国会の了承を得て堂々と行くのも一つの姿だ」と述べて、国会の事前承認を求めていたので、「いくらなんでも、それはないだろう」と思っていたのだが、その後、立憲民主党は「事後承認」容認に転じたらしい。
米ホワイトハウスは今回、2人の記者を同行させたが、事前には報道しないことを約束させ、通信機器も預かったという。日本のメディアはこれを受け入れるのだろうか。
何せ、先日の首相秘書官のオフレコ発言を「重大と判断」(毎日新聞)して堂々とオフレコ破りをし、それが許される国である。岸田首相の秘密訪問を「重大と判断」し、事前に報道に踏み切る社はないのか。
外務省高官が最も心配していたのは岸田首相の「身の安全」の問題だ。
バイデン氏はポーランド国境から10時間の列車の旅でキーウに着いたという。米国大統領の外国訪問はシークレットサービスだけでなく、軍や特殊機関であるCIA(中央情報局)などが総掛かりで大統領を守る。
ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が昨年8月に訪台した際も、米軍が全面展開し、彼女を守ったから中国は手を出せなかった。これに対し、日本の自衛隊は憲法上の制約で、首相の海外訪問の警護はできない。だから、岸田首相はバイデン氏とは違って、キーウには「丸腰」で行くことになる。
その場合、ウクライナ軍に警備してもらうか、あるいは米軍に頼むしかないのだろう。ウクライナから招待を受けているのでウクライナ軍の警備を受けるのはいいが、いくらG7議長として行くとはいえ、ある種の政治的理由による戦地訪問の警備を、外国軍に頼むというのは外交上あまり体裁の良いものではない。
昨年6月に、フランスとドイツ、イタリアの首脳が一緒にキーウに行った際は、3カ国の軍や特殊機関が同行して警護した。日本も一時、それに便乗しようという動きもあったらしいが、これもあまりカッコイイ話ではない。
結論を言うと、日本は他のG7諸国とは憲法が違うから、首相が戦地に赴くのは大変危険だ。外国の兵士にまで危険が及ぶならなおさらのことで、岸田首相はもしキーウに本当に行きたいなら、憲法を改正して自衛隊に守られて自力で行くべきだ。それが「普通の国」がやるべきことではないか。 (フジテレビ上席解説委員・平井文夫)