葬儀場職員が「娘の遺体の胸を…」それでも被害女子高生の母が、陰湿すぎるわいせつ行為を“知ってよかった”理由

勤務していた葬儀場のトイレ盗撮や、葬儀を控える遺体へのわいせつ行為を繰り返していたとして、迷惑防止条例違反と建造物侵入の罪に問われていた男の公判が今年1月から2月にかけて東京地裁(神田大助裁判官)で開かれていた。
「遺体の陰部を弄ぶ目的」で侵入
篠塚貴彦元被告(42)は、東京都大田区にある葬儀場のスタッフだった。勤務中、女子トイレ個室内に自身のスマホを置き、弔問客が用を足す様子を盗撮し続けていたほか、あろうことか「女性の遺体の陰部を弄ぶ目的で」(起訴状より)遺体安置室に侵入していた。起訴されたのは25件の盗撮と、3件の建造物侵入の罪。葬儀場を訪れた弔問客や、遺族が悲しみに暮れる様子を目の当たりにしながら、篠塚元被告は陰湿なわいせつ行為に及んでいた。少なくとも盗撮は5年前から続けていたというから、実際の被害は25件にとどまらないはずだ。
長きにわたり職場で犯行を重ねながらも、すぐに逮捕されなかったことで気が大きくなっていたのか、篠塚元被告は被告人質問で「捕まると思ってなかったし、捕まっても話がここまで大きくなるとは思ってなかった」と繰り返した。だが彼の見立ては外れたことになる。遺体へのわいせつ行為という前代未聞の事件として、初公判から大きく報じられたからだ。さらに篠塚元被告による遺体へのわいせつ行為が「建造物侵入」という罪名で起訴されていたことも注目を集めた。
「スマホの動画には娘の遺体の胸を…」
3件の建造物侵入は、いずれも遺体へのわいせつ行為のための葬儀場への侵入行為である。このうち、一昨年の冬に17歳で亡くなった高校生の母親・Aさんによれば「スマホの動画には娘の遺体の胸を揉み、膣に指を入れる様子が映っていたそうです」という。篠塚元被告による行為がわいせつ目的であることは疑いようがない。にもかかわらず、死体損壊罪ではなく建造物侵入での起訴となった。死体損壊の「損壊」行為は刑法上、物理的な損壊のみを指すからだ。たとえ遺体に対する性交、つまり死姦であろうと、死体損壊とはならないと昭和23年の最高裁判決で判断されている。今回のような遺体の膣内に指を入れる行為は「損壊」ではないのだという。
こうした現状に疑問を抱いたAさんは、初公判が始まってからメディアによる取材をたびたび受けた。篠塚元被告の逮捕の知らせを受けたのは、愛娘を突然亡くし、ようやく一周忌をむかえた直後の昨年12月のこと。彼はAさんの娘の葬儀担当者だった。篠塚元被告はまず盗撮容疑で現行犯逮捕され、その際のスマートフォンの解析によって遺体の動画が発見されたという経緯がある。篠塚元被告のスマホにはAさんの娘だけでなく、数名の遺体に同様の行為を働く動画が保存されていた。つまり盗撮での逮捕がなければ、遺体へのわいせつ行為は発覚しなかったことだろう。
「娘の件は氷山の一角かもしれない」
当時、取材を受けるに至った気持ちについて、Aさんが改めて語る。
「ということは、娘の件は氷山の一角かもしれない。死後のわいせつ行為が法律で罰せられるようになってほしいですし、葬儀場での遺体の取り扱いや霊安室への出入りについてのルールが定められて欲しいという思いもありました。そうしなければ、同じことがきっと繰り返される。何か変わるきっかけになればという強い思いがありました」
ところが、ニュースが出た後はインターネットの上の書き込みや顔見知りからの連絡に、Aさんの心は波風を立てた。多かったのが“借金の申し込み”だったという。
「複数の人から連絡がありました。報道から、私が『裁判の関係者になった』ということは理解したらしいのですが、それだけで『篠塚元被告から賠償などの多額の金を得た』と誤解したようです」(Aさん)
実際のところ篠塚元被告は、Aさんをはじめとした関係者に対しては、謝罪文すら送っていない。金銭的な賠償は現時点では全くなされていない状態だ。
母であるAさんが取材を受ける理由
さらに、テレビ局の取材に応じた際の映像がニュースで流れると「見たよ~、しかしずいぶんとまあ太ったね笑」と、Aさんの容姿を嘲笑するような連絡が顔見知りから来たという。
「私は娘を亡くしてからずっと寝たきりでした。1年間ほとんど外出もできずに過ごし、精神科で処方された薬を服用していましたが、体重が増加するという副作用があります。これまでどう生きてきたかをよく知らない人から、そういうことを言われて……でも怒るのも面倒だから『そうだね』って返して。
それでも私が取材を受けるのは、現状を少しでも変えるきっかけになればと思っているからです。お金が欲しいとか可哀想がられたいとか有名になりたいとか、そんなわけではない。たとえ自分の姿を晒すことになっても一石を投じたい、ただそれだけなんです」(同前)
そんなAさんの声が拡がり始めた。3月8日、衆議院予算委員会で塩村あやか議員が質疑でこの事件を取り上げたのだ。塩村議員は、遺体へのわいせつ行為が死体損壊罪ではなく、葬儀場への建造物侵入罪にしか問えないことについて「また同じことが発生して、また建造物侵入罪で裁いていくのかという問題が残ってくる。あまりにも問題が大きいのではないか」と、法務大臣に迅速な対応を求めた。
加えて経済産業大臣に対しても「法整備がなされるまで、遺体の安置室に複数の目が行き届くようにするなど業界に対して何かしら対応をお願いして欲しい」と求め、経産大臣は「改めてガイドラインの趣旨が徹底されるように業界団体に対して注意喚起を行い、葬儀業界全体の取り組みとして促していきたい」と述べている。
「警察は遺族に知らせない方が良かったんじゃないか?」
Yahoo!ニュースコメントには「警察はこのことを遺族に知らせない方が良かったんじゃないか?」といった書き込みがある。Aさんは言う。
「確かに当時は、どうしてそんなこと教えたの? 指を入れたことまで言う必要あった? と思っていましたが、いまは知ってよかったと思っています。大事なかわいい娘に起こったことを知らないままでいたくはなかった」
Aさんにお詫びの連絡は一切ない
篠塚元被告は公判で、遺体の安置場に侵入した理由について「遺体撮影のためもあるし、仕事の一環で入ったとき、触りたくなったときもある。遺体が運ばれてきた際に見たり、冷蔵室に入ってきたとき、衝動的に抑えられなくなった」などと説明していた。2月3日、懲役2年6月執行猶予4年の判決が言い渡されたが(求刑・懲役2年6月)、被告・検察の双方は控訴を申し立てることなく、同月下旬に執行猶予判決が確定している。篠塚元被告からはAさんに対してお詫びの連絡は一切ない。
公判では「扶養すべき妻子がおり、妻が今後の指導監督を約束している」などとして、執行猶予判決が言い渡された。犯行の様子が記録されているスマートフォンは没収されているが、篠塚元被告は「子供の写真が入っている」などと述べ、返却を求めている。傍聴席に座るAさんに目を向けることも、頭を下げることもなかった。
「話がここまで大きくなるとは思ってなかった」と法廷で繰り返していた篠塚元被告は執行猶予判決が言い渡されたのち、居住地だった都内の自宅から転居している。自身の行為が国会でも取り沙汰されるとは思っていなかったことだろう。
(高橋 ユキ)