昭和41年に静岡県の一家4人が殺害された事件で死刑が確定し、静岡地裁の再審開始決定を受けて釈放された袴田巌さん(87)の差し戻し審で、東京高裁(大善文男裁判長)が13日、袴田さんの再審開始を認める決定を出した。第2次再審請求審では、犯行着衣とされた「5点の衣類」のカラー写真など、再審開始決定の決め手となった証拠が初めて開示された。通常の刑事裁判と異なり再審請求には証拠開示のルールが存在せず、弁護側に有利な証拠が埋もれたままのことも。法整備の議論は進まず「再審事件の審理に格差を生んでいる」との声も上がる。
袴田事件では、発生から半世紀以上が経過した今も検察側は「刑事訴訟法では再審事件の証拠開示に関する規定はない」として証拠リストの全面開示に応じていない。ただ平成22年、静岡地裁の勧告を受けて検察側は、事件当時の捜査報告書や5点の衣類のカラー写真を弁護団に開示。衣類に付いた血痕に赤みが残っていることが確認され、地裁は26年、捜査機関による捏造(ねつぞう)の可能性を示唆し、再審開始決定を出した。
今年2月27日に大阪高裁が1審に続き再審開始決定を維持した「日野町事件」でも、遺体発見現場の実況見分の写真ネガなど、再審請求段階で新たに開示された証拠が判断の決め手となっている。
「裁判所ごとに『再審格差』があり、制度の不備が看過できない」。日本弁護士連合会は2月に公表した意見書で、再審法は「冤罪(えんざい)救済の最終手段であるにも関わらず、70年以上改正から取り残されている」と指摘。審理の進め方や証拠開示の明文規定が存在せず、審理を放置している裁判所すらあると指弾した。
平成28年に成立した改正刑事訴訟法は、再審請求審の証拠開示を含めて、見直しの時期を迎えている。だが、法務省の協議会では、取り調べ時の録音・録画など、すでに実現した制度の検証を優先する方針が確認されており、再審関連の議論は後回しになっている。
日弁連再審法改正実現本部の鴨志田祐美弁護士によると、再審法改正の協議は最高裁、法務・検察、警察、日弁連の4者間で行われていたが、今年に入り「事実上の自然消滅状態」だという。鴨志田氏は「議員立法のような形でなければ改善は見込めず、国会議員への働きかけを強めていきたい」と話した。