各地に点在する狼藉の痕跡が、元凶へと繋がっていく。その輪郭が見え始めた頃、既に1人の命が失われていた。「ルフィグループ」による犯行は、なぜ食い止められなかったのか
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強盗事件の主要メンバー4人が日本に強制送還される
2月28日、強盗犯・加藤臣吾(24)を乗せた新幹線が東京駅に到着した。
「昨年12月の広島市の事件で、強盗傷害などで起訴済。この日、狛江事件にも関与したとして警視庁が再逮捕した。この事件では5人目の逮捕者」(社会部記者)
今年1月19日、東京都狛江市の民家で大塩衣与さん(90)が惨殺された強盗殺人。複数の強盗事件に関わった狂暴な永田陸人(21)ほか、最年長の野村広之(52)、都内私大生のY(19)、犯行に使うレンタカーを調達した福島聖悟(34)が逮捕されていた。
寄せ集めの兵隊を遠隔操作していた首謀者が「ルフィグループ」。主要メンバーは渡邉優樹、今村磨人(きよと)、藤田聖也(としや)(それぞれ38)、小島智信(とものぶ)(45)の4人である。
「首魁を解明、検挙することが重要だ」
露木康浩警察庁長官がそう明言したのは、狛江事件から1週間後のこと。そこから急転直下、2月2週目にはフィリピンのビクタン収容所に潜伏していた4人の身柄が日本に強制送還された。一見、スピード感ある展開だ。しかし――。
4人の逮捕容疑は、2019年、特殊詐欺に関与したとするもので、警視庁が逮捕状を取っていた。つまり、警察当局は3年以上前から後の「ルフィ」たちを認識していたことになる。
「今村が19年、渡邉ら3人が21年にフィリピンの入管に拘束され、警視庁は警察庁を通じてフィリピンに身柄の引き渡しを求めた。だが、渡邉らは元妻など協力者に虚偽の告訴をさせたため、フィリピン側は国内で別の事件に関与したとして、引き渡し要請に応じなかった」(警視庁関係者)
その間、4人は賄賂の横行する収容所内でスマホを入手。「ルフィ」や「キム」などテレグラムのアカウントを使い分け、犯行を続けた。特殊詐欺に加え、やがて強盗にも手を広げる。
日本の警察が本腰を入れて外交交渉をしていれば…
ルフィたちは縦割りの警察組織の間隙を突いた。
「関連事件は少なくとも14都府県、20件に及んでいた。京都府警など、フィリピンを発信源とする『ルフィ』なる指示役を把握していた警察本部もある。しかしそれらが共有され、渡邉や今村たちの存在と繋がるには、かなりタイムラグがあった」(前出・記者)
結果、ルフィの犯行に歯止めがかからず、死者を出してしまう。
「その後、日本側がフィリピンに引き渡しを要求したら、渡邉たちのスマホは押収され、虚偽告訴も退けられた。マルコス大統領が資金援助を求めて来日するタイミングでもあったが、日本の警察が本腰を入れて外交交渉をすれば、もっと早期に身柄の移送を実現できたのではないか」(警察OB)
犯罪に加担する者をどう減らしていくか
被害がここまで拡大した裏には、警察の“怠慢”があったのだ。今村から強盗事件の盗品を受け取っていたとされるフィリピン人の女も日本にいたが、
「今年2月に逮捕状を取った時には、既に帰国されていた」(捜査関係者)
一方、ルフィ逮捕後も強盗や特殊詐欺が後を絶たない。2月3日、いわき市の高齢女性宅での強盗殺人事件は、実行犯もまだ逮捕されていない。ジャーナリストの多田文明氏が指摘する。
「犯罪組織の上位を摘発できるに越したことはありませんが、加担する者をどう減らしていくかも重要。実行役の入り口となる闇バイトに目を光らせる対策など、携帯会社を含めた官民一体の努力が必要です。実行役を確実に捕まえ、加担すれば必ず逮捕されることを徹底して周知すべきでしょう」
地道な捜査に、警察の威信がかかっている。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年3月9日号)