高速バスにスポーツカー急接近・幅寄せ、客ら負傷…「あおり運転」ドラレコでは「防げない」

今年2月、熊本市の九州自動車道で高速バスが乗用車に追突し、バスの乗客ら5人が負傷する事故が起きた。ドライブレコーダーの映像から、直前に車がバスにあおり運転を疑われる行為をしていたことが発覚した。バスなど公共交通へのあおり運転から乗客らをどう守るか。交通事業者は対策に頭を悩ませている。(小波津晴香、石原圭介)

事故は2月5日午後2時50分頃、熊本市北区の九州道上り線で起きた。その一部始終が、バスに搭載したドライブレコーダーに記録されていた。
福岡市へ向かう九州産交バス(熊本市)の高速バスが、停留所から本線に入った。その直後、後方から1台のスポーツカーが加速しながら接近してきた。
車はパッシングして追い越し車線で真横に並ぶと、バスの側面に幅寄せした。さらにバスの前に入って急ブレーキをかけ、車線上に停止した。
バスは止まりきれず、追突。衝撃で運転手と乗客たちが激しく揺さぶられ、車のドライバーは路上から罵声を浴びせた。
この事故で運転手と乗客の計5人が負傷し、熊本県警は同13日、熊本市の自営業の男(60)を自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致傷)の容疑で逮捕。男は調べに「バスが入ってきて頭にきた」と供述したという。熊本地検は同22日、処分保留で釈放し、任意で捜査している。

同社の小柳亮運行本部長は、「このような危険な運転をされるのは初めてだった」と話す。一方で、追い越しを邪魔されたり、停留所から発車するのに進路を譲らなかったりと、バスへの嫌がらせともとれる行為は少なくないという。

バスやタクシーなどは、あおり運転の“加害者”となることを懸念されてきた。インターネットには、「バスがあおり運転をした」などと主張する動画が投稿され、国土交通省は2020年、バスやタクシー、トラックなどがあおり運転をした場合、事業者を車両の使用停止など行政処分の対象とすることを決めた。
だが、過去にもバスなどがあおり運転や危険な行為の被害に遭ってきた。三重県では同年10月、路線バスにハイビームの照射を繰り返し、クラクションを鳴らして停車させた男があおり運転の容疑で書類送検された。男は「道を譲ったのに、あいさつがなかったので追いかけた」と供述した。
大分市では21年12月、路線バスの前方で急ブレーキをかけて乗客にけがを負わせた男を大分県警が逮捕。岐阜市では22年11月、酒気帯び運転の男の車がタクシーに幅寄せし、追い越す際に衝突。女性運転手に軽傷を負わせて逃走し、その後に逮捕された。

交通事業者も対策を講じている。九州産交バスは今回の事故を機に、新型のドライブレコーダーを導入。バスが車両にぶつかるなどして衝撃を受けると、ただちに録画映像が社内の管理者に共有され、警察に通報するなどして対応できる。3月までに熊本―福岡間の高速バス全37台に設置。検証を経て4月からの完全稼働を目指す。
ある大手タクシー会社では、全ての車両にドライブレコーダーを装着し、運転手があおり運転に遭った場合は、翌日の朝礼で注意喚起している。
対策の限界を指摘する意見もある。日本バス協会(東京)の担当者は「ドライブレコーダーはあおり運転の抑止にはなるが、完全には防げない」とし、「あおり運転に備えて、高速道路では乗客のシートベルト着用を徹底するなどして、被害を軽減させなくてはならない」と話す。
名古屋大の小嶋 理江 (まさえ)特任助教(交通心理学)は「乗客を乗せる公共交通機関は文句を言えないことなどから、あおられやすい可能性がある。具体的な事例を運転手同士が共有することで、あおり運転にあわないような対策が見つかるのではないか」と話す。