幕末の大老で彦根藩主の井伊 直弼 (なおすけ)(1815~60年)の功績を見つめ直す条例案が24日、滋賀県の彦根市議会で全会一致で可決、成立した。志士を弾圧した負のイメージで語られることの多い直弼だが、実は江戸期を代表する茶人で「一期一会」を世に示した人物。彦根市では条例を通じ、茶の湯文化の継承や普及に努めていく。
「井伊直弼公の功績を尊び茶の湯・一期一会の文化を広める条例」で、4月1日に施行される。
直弼は幼少期から茶の湯に親しみ、青年期には千利休ら多くの先人の思想を学んだ。大老就任前の1857年(安政4年)には「 茶湯一会集 (ちゃのゆいちえしゅう)」を著し、「出会いは一生に一度限り。だからこそ誠心誠意向き合うことが大切」という利休の教えを初めて「一期一会」の4文字で世に示した。
だが「安政の大獄」で尊王攘夷派の志士らを弾圧し、1860年(安政7年)に桜田門外の変で暗殺され、茶人としての功績はいつしか忘れ去られた。
このため茶道関係者や市民らが2021年、「直弼公の不運を断ち切り、彦根から茶の湯の精神を世界に発信したい」と請願書を市議会に提出し、市が条例案を作成するに至った。今回の条例は「理念型」と呼ばれ、義務や罰則はない。茶の湯文化の普及を目指す条例では堺市、松江市に続き全国で3市目となる。
条例に詳しい関東学院大の出石稔教授(地域政策論)は「名誉回復条例は聞いたことがない」とし、「掛け声倒れでは意味がない。予算をつけて施策を実行し、効果を検証することが重要だ」と指摘する。
請願に動いた茶道家の川嶌順次郎さん(87)は「市民ぐるみで直弼公の生き方を学び、一期一会の精神でもてなす文化を醸成したい」と語る。(西堂路綾子)