安倍晋三元首相銃撃事件で、奈良地検は30日、殺人罪などで起訴されている山上徹也被告(42)について、事件前日に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連施設に手製銃を発砲した建造物損壊や武器等製造法、火薬類取締法、銃刀法違反の罪で追起訴した。一方、安倍氏が参院選の応援演説中に銃撃されながら、公職選挙法違反罪での起訴を見送った。選挙妨害の意図を立証するのが困難と判断したとみられる。ある検察幹部は「『心の中身』は、立証のハードルが高い。結局はそこを支える十分な証拠がなかったに尽きる」と背景の一端を明かす。
公選法の自由妨害罪の成立には、選挙妨害の意図が重要とされる。元刑事裁判官で法政大法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は、「選挙が混乱するだろう」ぐらいでは足りず、「明確に政治家や政党に打撃を与えるとの認識が必要だ」と指摘する。
山上被告は、旧統一教会への恨みから「教団とつながりがある安倍氏を狙った」と供述したとされる。ここから選挙妨害の意図をいかにくみ取るか。検察幹部は「どのように捉えるかは、絶対的なものではなく『評価』の問題。確かに複数の解釈があり得る」と立証の難しさを語る。
今回、公選法違反罪の適用の可否が焦点となったのは、事件全体の動機の立証に影響するとの見方があったからだ。
平成19年に長崎市長が射殺された事件では、元暴力団幹部の男が殺人や公選法違反罪などに問われた。1審長崎地裁は選挙妨害を認めて死刑判決を言い渡したが、2審福岡高裁は「主な動機は市長への恨みで、選挙妨害そのものが目的ではない」ことも考慮し、無期懲役とした。
警察当局を中心に、公選法違反罪で起訴した方が「『民主主義への挑戦』と主張しやすく、厳しい刑につながる」との見方もあった。ただ、同罪での起訴が見送られても、選挙活動中の凶行が与えた社会的影響の大きさを公判で強調することは可能だ。検察関係者は「核心はあくまでも安倍氏への殺害行為。公選法に重きを置く必要はない」と話した。