14日午後、小雨が降る山口県下関市。安倍晋三・元首相の死去に伴う衆院山口4区補欠選挙の応援演説に、「元女房役」が立った。
「一人の政治家によって、こんなにも(社会は)大きく変わるんです」
安倍政権で官房長官を務めた自民党の菅義偉・前首相は、「アベノミクス」や安全保障関連法など安倍氏の功績をたたえ、「後継者にふさわしい大きな票で当選させてください」と自民新人の前下関市議、吉田真次氏への支援を訴えた。
長年、強固な地盤を築いた安倍氏の後継として、吉田陣営は徹底して「弔い合戦」を演出する。
告示日の11日の出陣式には、安倍派の萩生田政調会長や下村博文・元文部科学相のほか、昭恵夫人も登壇し、「私も一生懸命、主人のためにも頑張ります」と涙ながらに訴えた。吉田氏も「天上の安倍先生から『吉田君、日本のことを頼むよ』と言ってもらえる戦いをします」と感極まった様子で声を張り上げた。
後援会長が吉田氏の名前を「安倍真次」と言い間違える一幕もあったが、萩生田氏がすかさずフォローにまわった。
「下関の皆さんは、投票用紙に『安倍』しか書いたことがない。後援会長さえ間違える。これから吉田真次に切り替えましょう」
吉田氏は、2021年衆院選で安倍氏が得た8万票を目安に「圧勝」を目指す。次期衆院選は「10増10減」で県内の小選挙区が4から3に減り、4区は新3区に編入されるため、大差での勝利は、新3区の候補としてアピール材料になる。
林氏と競合も ただ、自民県連は必ずしも一枚岩とは言えない。懸念の一つが、林外相(山口3区選出)に近い「林系」の地方議員らの存在だ。林氏には新3区からの出馬に待望論があり、今回、吉田氏が勝てば、候補者調整で競合する可能性がある。
下関市は、かつて安倍、林両氏の父親同士が地盤を激しく争った土地で、市議会の自民議員は今も「安倍系」「林系」の二大勢力が主導権を争う。安倍氏の死後初めてとなる2月の市議選を経て、安倍氏に近い会派は選挙前から2減の7人、林氏に近い会派は1増の12人となった。議長ポストも取った林系の優勢が目立つ。
吉田氏の擁立は、昭恵氏や後援会幹部が主導した。林系議員の間には「本来の決定機関である党の下関支部に一切相談がなかった」と不満が渦巻く。林系議員の一人は「我々が不要というなら補選では何もしない」とつぶやいた。
亀裂を狙う 厚い保守地盤の亀裂を突こうと狙うのが、立憲民主党の前参院議員、有田芳生氏の陣営だ。
「長く、与野党の枠を超えて一緒に仕事をしてきた、大きな人です。頭がいいのに偉ぶらない」
立民の蓮舫参院議員が11日、JR下関駅前の演説で褒めそやしたのは、その場にいない自民の林氏だった。普段は 舌鋒 (ぜっぽう)鋭く政府を批判する蓮舫氏の賛辞は、林系の議員や支援者に吉田氏に投票しないよう促す狙いがある。有田氏も3月の出馬表明時、記者団に「林さんは総理の風格が十分にある」とあけすけに語った。
両親が下関市に縁があるという有田氏は、論戦では徹底して安倍政権の是非に焦点を当てる。「旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と徹底的に戦ってきた」と自己紹介した4月11日の出陣式。「旧統一教会問題」のほか、争点に「アベノミクス」「北朝鮮による拉致問題」を挙げたが、岸田内閣への批判には、ほとんど触れなかった。
立民の泉代表は14日、下関市での街頭演説で「どの選挙区であっても、強固な自民の地盤を覆すだけの民意がある」と力を込めた。
統一地方選の前半戦で伸び悩み、野党第1党としての存在感が薄れがちな立民としては、山口4区補選を「『安倍政治』そのものが問われる選挙」(岡田幹事長)と位置付け、自民と 対峙 (たいじ)する象徴的な戦いとしたい考えだ。 (山崎崇史、山口総局 相良悠奨)