岸田文雄首相の選挙応援演説会場に爆発物が投げ込まれた事件は、海外メディアも速報するなど、国内外に衝撃を与えている。安倍晋三元首相暗殺事件後、警察庁は要人警護の体制を大幅に拡充したはずだが、今回、その教訓は生かされたのか。来月に迫った広島でのG7(先進7カ国)首脳会議は大丈夫か。世界のテロ対策などに詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に警護のあり方を聞いた。
「非常に難しい問題。今回のように屋外で群集の中に入っていった場合は、どうしても限界がある」
黒井氏はまず語った。
昨年7月、安倍元首相が参院選の応援演説中に銃撃を受けて死亡する事件が起きた。
黒井氏は「安倍氏の事件の際は、当時の奈良県警などの警備に油断があったことは確かだ。ただ、現職の国政トップである岸田首相の場合は、警護の数も手厚く、遊説先についても事前調査を行っていたはずだ」と話す。
VIPの警護は、米国のやり方がよく参考にされる。
大統領が応援演説や支持者の集会を訪れる場合は、移動ルートの安全確保や金属探知機による会場内の持ち物検査はもちろん、大統領警護隊(シークレットサービス)による厳重な警護が行われる。
2019年に当時のドナルド・トランプ米大統領が来日した際は、滞在したホテル周辺や、訪問した両国国技館などはドローン(小型無人機)の飛行禁止区域に指定されるなど、厳戒体制が敷かれた。
黒井氏は「米大統領の移動時は、大統領専用車はダミー車も合わせて複数台が走る。集会などでは周囲のホテルやビルの建物内などが徹底的に調べられる。ただ、その米国でさえも屋外での遊説などでは事件が起きることもあり、屋外での警護はそれほど難しい」と説明する。
今回の事件では、会場では警視庁の警護員(SP)や和歌山県警の警察官も警戒中だった。事件発生直後、会場にいた50代の漁師の男性が現行犯逮捕された木村隆二容疑者を取り押さえた。
黒井氏は「漁師の男性が容疑者の体を押さえたときには、周囲のSPの動きも早かった。今回は『ガードに成功した』とほめていいケースだと思う」といい、続けた。
「日本では米国のように高性能の銃器もそれほど出回っておらず、VIPと聴衆の間を30~40メートル離せば安全はかなり確保される。ただ、握手した数だけ得票にもつながるような選挙戦においては限界がある。リスクとベネフィット(利益)を吟味して判断するしかない」