殺意や選挙妨害の意図焦点 首相襲撃、複数容疑の立件視野

岸田文雄首相の選挙応援演説会場に爆発物が投げ込まれた事件では、威力業務妨害容疑で逮捕された無職、木村隆二容疑者(24)が選挙制度に対する不満から国を相手に訴訟を起こすなど、動機につながる過去の行動が少しずつ明らかになってきた。容疑者は自作とみられる爆発物2本を持ち込んだほか、果物ナイフも所持。今後殺意の有無や選挙妨害の意図があったかなどの解明が焦点となる見込みで、和歌山県警は殺人未遂容疑のほか、公選法違反容疑などの適用も視野に全容解明を急ぐ。
事件2日後の今月17日、和歌山市内の工業用地に捜査員の姿があった。木村容疑者が持ち込んだパイプ爆弾とみられる爆発物2本のうち、爆発せず現場に残っていた1本の暴発を防ぐ処理だ。捜査幹部は「2本の形状は類似していてもう1本も爆発の危険があった。第三者に危害が及ばない場所を選んだ」と明かす。
パイプ爆弾は、筒から延びた導火線のようなひも付近にナットが複数取り付けられていた。破片は爆発地点から最長で約60メートル離れた地点から見つかり、さらに離れた海中も県警は捜索。構造や殺傷能力について調べており、武器等製造法違反容疑などでの立件も視野に入れる。爆発物には黒色火薬の粉末が詰められており、火薬類取締法違反容疑などの適用も検討する。
甲南大の渡辺修・特別客員教授(刑事訴訟法)は「破片が人に当たれば相当の傷害を負わせていたと考えられる。殺傷能力があれば殺人未遂容疑での立件も可能だ」と話す。木村容疑者の自宅からは、黒色火薬とみられる粉末や金属製の管が押収された。自宅で材料をそろえて自作した可能性が高く、県警は押収したスマートフォンやタブレット端末の解析を進め、詳しい製造過程を調べている。
木村容疑者は逮捕後、「弁護士が来たら話す」と供述したが、弁護士の選任以降も黙秘を続ける。ただ、事件前に選挙制度や現政権への批判を繰り返していたことが判明。昨年6月には被選挙権の規定や供託金制度を巡り憲法違反だとして神戸地裁に提訴し、その後棄却されていた。
渡辺氏は「本当の動機は容疑者が語るしかない。黙秘を続けるのなら、動機につながる客観証拠を集めていくことが重要になる」と指摘。また、衆人環視の中で首相を狙うのは大胆過ぎる行為で、今後、犯行時の精神鑑定を行う必要があるとの見方も示す。
選挙の応援演説中、多数の聴衆がいる中で起きた今回の事件。捜査幹部は「多くの負傷者が出てもおかしくなかった。捜査を尽くし、犯罪行為はすべて立件する」と話した。