―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
CMで目にする「技術の日産」というキャッチコピーに、若者はピンとこないかもしれません。「自分で言っちゃう?」と思っている人もいるかも。しかし、かつては「販売のトヨタ、技術の日産」と言われたように日産は技術力を評価されていた自動車メーカー(古くはプリンス自動車の技術ですが)。そんな日産が、条件付きだけど手放し運転できるクルマを作りました!
MJブロンディ改め永福ランプ=文 Text by Shimizu Souichi
池之平昌信=写真 Photographs by Ikenohira Masanobu
◆やったぜ、日産! ハラハラ、ドキドキ、新型スカイラインで手放し運転してみた
国産乗用車メーカーは8社もあるが、そのなかで一番技術力を持っているのはどこでしょう?
「そんなの、トヨタに決まってんじゃん」
ボンクラ諸君はそのように考えることでしょう。
確かにトヨタの技術力はすごいが、わかりやすい技術で見ると、トヨタが誇るのはハイブリッドと燃料電池だけ。ハイブリッドはEVまでのつなぎだし、燃料電池は普及の見込みゼロ。EVや自動ブレーキ技術では明らかに出遅れた。
となると、どこが日本一なのか。
おそらく日産ではなかろうか。
「えっ、日産!? どう見てもイマイチでしょ~!」
ボンクラ的にはそのような印象をお持ちのことでしょう。
しかし日産の技術力はすさまじい。世界に先駆けてEVを量販し、ハイブリッドでも独自技術の「eパワー」をリリースして国内でヒットさせた。スポーツカーの世界でも、GT-Rは世界の神話。一方トヨタのスポーツカーは、スバルやBMWとの提携で独自開発ではない。
しかも日産は、自動運転技術に関しては、国産メーカーを常にリードしているのだ! 技術的には日産が日本一と言っても過言ではあるまい。
そんな日産がこのたびリリースしたのが、「プロパイロット2.0」を搭載したスカイラインだ。このクルマ、国産車で初めて手放し運転が可能になっております! こんなのトヨタにはまだぜんぜんない! まさにぶっちぎり! それを体験させていただこうじゃないですか。
この手放し運転、安全確保のためさまざまな条件がありまして、まず中央分離帯のある高速道路上じゃないとダメ。プロパイロット2.0はゼンリンの3D高精度地図データと連動しているので、いま自車がいるのがどこかをカンペキに判定する。
設定可能な車速は時速60km以上。高速道路上で遅すぎるとキケンですからね。そして制限速度以下。80km制限の中央道で、100kmで手放しするといったインチキも不可能になっております。また、車内のカメラがドライバーの「目」を監視し、わき見や居眠りにも激しく警告いたします。すげぇぞ、日産!
◆50km規制のせいで手放し運転できず!?
いよいよ中央道に向けて発進だ! と思ったところに悲報が届いた。
「雨のため、さきほど中央道に時速50km規制が入りました」
ガーン! プロパイロット2.0は道路上の速度標識も認識するので、50km規制はクルマにバレバレ。しかし60km以上じゃないと手放し運転は不能! これじゃ肝心のところが体験できましぇん!
愕然としながら河口湖ICから中央道に乗り入れ、通常のアダプティブ・クルーズ・コントロールで走行する。もちろんアクセルやブレーキはクルマまかせ。加えてカメラとGPSデータの連動でハンドルもガッシリ操作してくれる。ただし手は添えておかないとイカン。無念。
と思いながら走っていたら、都留ICで50km規制が解除された! ヤッター! ついに手放し運転を体験する時がきたぜ!
すげえ……。こりゃラクチンだ! 電車に乗ってるみたい! さすが技術の日産! トヨタをぶっちぎってるぜ!
それにしても、いろいろ不自由な技術ですなあ。日本の制限速度って遅いしさ。中央道を80kmで走ってると、鬼のようにブチ抜かれまくりで、軽トラにもぶっちぎられたぜ、日産。
とはいえ、これは日産が悪いのではなく、お上(国交省や警察)の指導のなせる業である。なかでも雨の50km規制って、守ってるとメッチャ危険なんですけど。後方からものすごい勢いで大型トラックが迫ってきて、マジ生命の危機を感じる。
ともかく現状ですと、BMWやフォルクスワーゲンが実現した「渋滞時(時速60km以下)の手放し運転」のほうが、ありがたみはあるのではなかろうか。運転が一番メンドクサイと感じるのは渋滞のなかなので。そこが残念だぜ、日産!
【結論】
ということで、いろいろシバリがキツすぎて、プロパイロット2.0が欲しいとは1ミリも思いませんでしたが、日産の技術がトヨタをぶっちぎっているのは間違いないんじゃなかろうか。敬礼だぜ、日産!
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
【清水草一】
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中。清水草一.com