車検切れの車を検査場まで移動させるため、市町村が貸し出す臨時のナンバープレート「仮ナンバー」。その4分の1が期限内に返却されていないことが1日、総務省近畿管区行政評価局の調査で明らかになった。仮ナンバーは交通違反をしても身元特定に時間がかかるとして、一部で「神ナンバー」と呼ばれている。犯罪に悪用される懸念もあり、適切な管理が急務となっている。
行政「在庫ない」
仮ナンバーは道路運送車両法に基づき、車検切れの車や未登録の車を運輸支局まで運行させる場合などに使用できる。プレートに赤い斜線が引かれているのが特徴だ。
運行目的や経路、期間を特定し、市町村が許可して貸し出す仕組みで、有効期限は最大5日間。期限後5日間以内に返納しなければならず、違反の場合は6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される。
この仮ナンバーを巡り、近畿管区行政評価局が調査に乗り出したのは昨年のこと。「他県の仮ナンバーを付けた車が駐車場に長時間止まっていて不安」「市役所から在庫がなく、仮ナンバーを貸し出せないといわれ困っている」といった行政相談が寄せられたのがきっかけだ。
このため、仮ナンバーの返納状況について大阪、滋賀、和歌山の3府県から12市町を任意抽出して調査を実施。令和3年度に貸し出された仮ナンバー6276組について調べたところ、4分の1近い1518組が返納期限を超過していたことが判明した。
延滞分のうち874組をさらに詳しく調べたところ、9割近くは1カ月以内に返納されていたが、半年以上返納されないケースも計27件確認された。
こうした現状について、同局の担当者は「利用者に法令違反の認識が薄いのではないか」と推測する。また調査では、自治体対応に温度差があることも浮き彫りになった。
たとえば仮ナンバーの返却期限と罰則について、ホームページで周知している自治体は12市町中わずか6市町にとどまった。
督促状を送付したり、実際に職員が訪問して返納を求めたりする自治体がある一方で、電話だけで済ましているところもあり、期限超過の割合は2~60%と、自治体によって大きな開きがあった。
通常ナンバーとは異なり仮ナンバーでは利用者や用途の特定にあたり、警察から各地自治体に問い合わせなければならず、裏付け捜査に比較的時間を要する。このため、悪意ある者からは「神ナンバー」として重宝され、過去には暴走族が違法改造車を乗り回すため虚偽の申請をして摘発されたケースもあった。
調査や回収本腰
実際、今回の調査では数十年前に失効した仮ナンバーが返納されず使い回されていたとみられる事例も発覚した。「仮ナンバーが未納のまま放置されれば、悪用のリスクはある」と同局の担当者は懸念する。
事態を重くみて仮ナンバーの回収強化に乗り出した自治体もある。大阪府交野市では今年1月から、未返納者に電話や文書で刑事告発の可能性も告げて返却を促し、それでも応答がないケースでは市職員が複数回訪問して返納を求めた。
昨年12月時点で、保有する仮ナンバー17組のうち9組が2カ月以上、長期に及ぶものでは1年にわたり返納されていなかったが、2月中旬までにすべて回収できたという。
一連の調査を踏まえ、同局は2月、近畿運輸局に対して仮ナンバーの延滞について自治体に適切な助言を行うよう促した。
近畿運輸局では管内の近畿2府4県を対象に全数調査を実施中。5月中にも調査結果を取りまとめた上で、市町村に未返納者への具体的な対応指針を示す方針だ。(花輪理徳)
仮ナンバー 正式名称は「自動車臨時運行許可番号標」。経路や用途などを記した申請書に自賠責保険証、本人確認書類などを添えて、所在地の市区町村の窓口で申請できる。プレートには赤い斜線が引かれ、4桁の数字と管轄の運輸支局、発行した自治体名が記載されている。通常のナンバープレートと異なり、仮ナンバーの有効・無効、申請者、用途などを特定するには、管理を担う各自治体に問い合わせて記録と照合する必要がある。