G7後「衆院解散」の壁 衆参補選の結果で走ったら大変! 弱すぎ岸田体制のガバナンス、公明の学会高齢化に懸念 鈴木哲夫氏緊急寄稿

岸田文雄首相の「決断」が注目されている。GWが終われば、議長を務める広島G7(先進7カ国)首脳会議で国内外の注目を集め、その勢いのまま「衆院解散」に踏み切る可能性が指摘されているのだ。先月の衆参5補選(4月23日投開票)を「4勝1敗」で乗り切ったことが追い風となるとの見方もあったが、さまざまな難題があるという。ジャーナリストの鈴木哲夫氏が緊急寄稿した。
「4勝1敗。勝った勝ったと、これをもって解散なんかに走ったら大変なことになる」
自民党元選対幹部は、衆参5補選の結果を受けて、こう戒めた。4勝は、山口2区、4区、千葉5区、参院大分選挙区。1敗は和歌山1区だ。元幹部はまず4勝を総括した。
「山口4区は安倍晋三元首相が10万票前後を取っていたが、後継候補は半分の5万票。2区は岸信夫前防衛相の圧倒的地盤なのに、野党候補に5000票差に迫られた。大分もわずか340票差。千葉5区は、野党が乱立していたから勝てたまでで、一本化していたら完敗だった」
そして、唯一敗れた和歌山1区も深刻だ。
地元には、世耕弘成参院幹事長や二階俊博元幹事長らがいながら、それぞれが「10増10減」で選挙区減となる次の総選挙をめぐって思惑が交錯し、公認候補を決める段階からもめていた。お家騒動はよくあり、「どっちが勝っても自民党」ならいいが、今回は違うと同幹部は言う。
「他党が勝ちそうな場合は、中央から強力な調整が入る。安倍、菅義偉政権時代は、本人や側近、幹事長らが介入して力技で調整したが、いまはそれがない。統一地方選・前半戦の奈良県知事選もそうだ。岸田体制はガバナンスが弱すぎる」
つまり、「総選挙をやれる態勢とは言えない」ということ。同じ見方は自民党幹部やベテラン議員らにも多い。
もう一つ、解散シナリオに関わるのが公明党だ。
公明党は本来、地方議員が屋台骨であり、今回の統一選でも最大重視していた。「全員当選」を掲げて1555人を擁立したが12人が落選した。これは1998年に現在の公明党になってから最悪の結果だ。
最近の国政選挙でも苦戦が多く、統一地方選での反転攻勢を目指していただけに幹部らのショックも大きい。要因は、支持団体である創価学会の高齢化など組織力の問題や、世代交代がうまく進んでいないことなどがあるとされる。次期総選挙を見据えて、学会側の懸念は募る。
「大阪市議会で、大阪維新の会が単独過半数を達成した。これまで過半数に足りなかったから公明党に頭を下げて協力してもらう代わりに、公明党の牙城である大阪など関西の6つの小選挙区に、日本維新の会は候補を立てなかった。しかし、もう頭を下げる必要はない。維新は次の総選挙で公明党の現職に対抗馬を立てるのではないか。今の維新の勢いだと公明党の苦戦は必至だ」(学会幹部)
こうしたことから、公明党は「党の立て直しが必要。この時期の衆院解散には絶対反対」(同)ということだ。
岸田首相も、来年秋の自民党総裁選で再選を目指す大義として「総選挙勝利」を使うなら、時間が空き過ぎる。
自民党ベテランは「今国会会期末(6月21日)ではなく、もう少し後ではないか。年末に増税論議が本格的に始まる前、9月か10月かの臨時国会で…。そこなら総裁選まで1年を切っている」と話す。
今、早期解散を口にするのは岸田首相周辺が多い。
「解散カードは、岸田首相の一挙一動に党内の注目を集めさせ、反岸田勢力を黙らせ、存在感や求心力を高める」(岸田派議員)からだ。
支持率も回復傾向で、見せ場となるG7サミットもある。これらの追い風で、解散カードを切るタイミングの選択肢は確かに広がってきたが、踏み切る際の壁は多い。