大阪でハイリスクなコンビニ強盗激増 背景にコロナが広げた貧富の差

刃物を手に店員を脅し、現金を奪うコンビニ強盗。かつては頻発していたが犯行の様子が店内の防犯カメラで記録されることから、犯人逮捕につながりやすく、全国ではこの10年で6分の1にまで減少した。発生件数は右肩下がりとなっており、〝過去の犯罪〟にもなりつつある中で、今年は大阪府内で激増している。発生件数は4月時点ですでに昨年1年間の7倍以上。かつては発生件数が全国ワーストだったこともあるが、捜査幹部は「カメラの精度も高く、まず逃げられない。増える理由が見当たらない」と首をかしげる。
コンビニをはしごした男
2月11日未明、黒いパーカー姿の若い男が大阪市西淀川区のコンビニで携帯電話の料金を支払っていた。支払いに使われたのは、直前に別のコンビニで店員を脅して奪った金。男はこの日、わずか20分余りでコンビニ5店舗を〝はしご〟しており、携帯料金を支払った店以外の4店舗で刃物を使って強盗を企てていた。
大阪府警は同日夕、うち1店舗で6万円を奪ったとする強盗容疑で、近くに住む無職の男(21)をスピード逮捕。防犯カメラの映像と携帯料金の支払い記録が決め手となり、男は「金がなくて困り、むしゃくしゃしてやった」と供述した。
この男の4事件をはじめ、大阪府内では今年に入り、コンビニ強盗が急増している。現金を奪えなかった強盗未遂事件も含めると、4月末までに15件発生しており、過去5年間の平均件数をすでに上回っている。昨年は1年間でわずか2件(速報値)で、新型コロナウイルス禍以前の令和元年も年間9件だったことと比較しても異常なペースだ。
「ほぼ〝足が付く〟事件」
店舗数が多く、24時間営業のコンビニは、かつて強盗犯の格好のターゲットだった。大阪は特に発生が多く、全国での発生件数が、コンビニ強盗を統計の項目として以降で最多の898件だった平成21年は、大阪だけで107件。全国のコンビニ強盗の1割以上を占めていた。3~4日に1件のペースで発生していた計算になる。
警察と事業者が連携し、訓練や防犯カメラやカラーボール、非常通報ボタンの整備などに取り組んだ結果、発生は大きく減少。犯行の様子や逃走方向がカメラで記録され、警察への通報も速やかに行われるため「ほぼ間違いなく〝足が付く〟事件」(捜査幹部)となった。全国的にも減少傾向にあり、警察白書によると、令和3年の認知件数は106件とピーク時の8分の1以下だった。
要因はコロナ収束?
今年の急増の背景には何があるのか。防犯ジャーナリストの梅本正行氏は、新型コロナ禍が終わりに向かっていることが一因にあると分析する。「社会が不安定な状態になると犯罪が増えるが、コロナ禍では社会活動そのものが停滞していた」と指摘。その上で「社会活動が再開しても、金銭的な困窮が続いた犯人が〝やけっぱち〟になり、相次いで強盗に走っているのではないか」とみる。
府警が今年に入って逮捕した容疑者の多くは、「所持金がなくなった」「家賃を数カ月滞納していた」などと供述し、経済的な困窮が動機だと説明している。
コンビニ強盗は犯人側にとっては逮捕のリスクが高いが、梅本氏は「コンビニは犯行のイメージがたやすいのだろう。犯罪者は、自分だけよければいい、今だけよければいい、金だけがほしい、『3だけ』で動く。捕まるリスクなんて考えていない」と話す。
府警は今年に入って発生した15件のうち14件で、容疑者を逮捕・送検している。捜査幹部は「店員がけがをしたり精神的に深い傷を負ったりするリスクがあり、許されない。捜査の手を緩めず全て検挙する」と力を込めた。(小川恵理子、中井芳野)