いま、マニアが熱いんです。「珍事件マニア」「信楽タヌキマニア」「富士そばマニア」……約120組の個性的なマニアが集まる「マニアフェスタ」が、9月28日29日の2日間、アーツ千代田3331で開催されています。出展するマニアは、独特なテーマと、ならではの切り口に、メディアからもひっぱりだこ。イベントを通して、高まる「マニア」需要の理由を考えました。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)
【画像】「珍事件・怪事件マニア」や「大学の水マニア」も…奥深いプレゼン大会の様子はこちら
「マニアフェスタ」とは 「マニアフェスタ」は、マニアたちがブースを構え、それぞれの「好き」にまつわるオリジナルグッズを販売するイベントです。運営は珍スポットツアーなどを企画する会社・別視点で、今回が3回目の開催です。83団体が出展し、2,700人が来場した前回からスケールアップし、今回は2日間で約120団体が出展しています。 初日は開場するとすぐに、人と熱気に包まれました。10年以上マレーバクの追っかけをしている「マレーバクマニア」や、食材だけでなく生物としての魅力を伝えたい「イカマニア」、「顔ハメ看板にハマるマニア」から「自分の顔ハメ姿を自撮りするマニア」まで……どのブースにも人だかりででき、「すごいですね」「マニアックすぎるでしょ」という声が聞こえてきます。
出演権をかけてプレゼン大会も ブースを訪ねてマニアの方々と交流し買い物をするのが醍醐味ですが、別室ではマニアの魅力を凝縮して伝えるトークイベントも設けられています。 28日に行われたのが、「出演権争奪!マニアプレゼン大会」。マニアの方々が制限時間5分でプレゼンを行い、TVやラジオの番組のブッキング権を持つディレクター3人が審査します。 プレゼンをしたのは、6組のマニアたち。学生服と学生帽のレトロなスタイルで登場したのが、「珍事件・怪事件マニア」の穂積昭雪さんです。明治~昭和の新聞から珍事件や怪奇事件を集め、ライターとして発信しています。 明治時代に実際に掲載されていたというのが、岡山に現れた正体不明の巨大怪獣の記事。昭和の新聞から見つけたのは、臨終を告げられた男性が、家に運ばれる途中で心臓が動き出したという不思議な事件。穂積さんは古新聞を「当時の日本人の生活をうかがい知れる一級資料」と話します。 プレゼンを終えて、審査員が「○」「×」のプラカードを掲げます。結果は、3人中2人が「○」。決め手について、「効果音などで演出しやすそう」「見た目にも特徴があり、少しブラックな内容が深夜番組にも合いそう」などのコメントがあがりました。 マニアの方は、イベントの後に「○」を上げたディレクターと連絡先を交換できます。そこから、具体的な出演に向けて、やりとりが始まります。もしかしたら、近々テレビやラジオにマニアの方々が登場するかもしれません。
「本人の熱量が病的」富士そばマニア 他にも「信楽タヌキマニア」や「イカマニア」、「大学の水マニア」や「電飾帯マニア」などがプレゼンしましたが、中でも全員の審査員の「○」を集めたマニアがいました。それは「富士そばライター」を名乗る、「富士そばマニア」の名嘉山直哉さんです。 2014年から、そばやうどん・丼もののチェーン店「名代 富士そば」に着目し、2015年には約130店あるというすべての店舗を制覇。店舗ごとに開発されるというオリジナルメニューが時に「常軌を逸している」といい、「フライドポテトそば」や「イクラ風タピオカ漬け丼」などを紹介しました。 審査員からは、「誰でも行ける身近な店だけど、知らないことが多くて面白い」「本人の熱量が病的な感じでいい」など高く評価を受け、名嘉山さんも思わず両手を上げ喜びをあらわに。新たなスター誕生の気配を感じつつ、イベントは大盛況で終了しました。
審査員「マニアブームが起こっている」 そもそも、テレビ・ラジオ業界の方がこのイベントに参加するのはどうしてなのでしょうか。「マツコの知らない世界」(TBS系列)や「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系列)などが代表格ですが、最近はコーナーの一部でも「マニア」が登場する番組をよく見かけます。マニアへの注目が高まっているのでしょうか。 「数年ほど前から『マニアブーム』が起こっている」と話すのは、審査員を務めた、AbemaTVで「ライムスター宇多丸の水曜The NIGHT」などを担当する松山健二さん(制作会社メディアミックス・ジャパン)です。これまでマニアフェスタに出展したマニアの方を、何人も番組で紹介してきました。 「ネットが身近になった2000年代半ば頃から趣味で情報を集めてきた人たちが、蓄えた知識を持って、ここ数年で発信してくれるようになったという印象です。それだけの蓄積があるので、見せかけじゃない深みを感じます」 番組を盛り上げる手法として、以前から「面白い一般人」を紹介することはあったと言いますが、「マニアの方自身が、刺激的で熱量もあって面白い。活動の話が聞き応えがありつつも、だんだんその人のことを好きになっていくのが魅力です」。 担当している番組でも、登場したマニアへの反響は好調といい、「どのようにマニアの人を探すかが悩み」と打ち明けます。そういった需要にすばり応えるのが、毎回多様なマニアを抱える「マニアフェスタ」だといいます。
細分化される趣味、道しるべはマニア マニアフェスタを運営する「別視点」社長の松澤茂信さんは、「ブームと言えるまでの体感はないが、マニアの活動が紹介される機会は増えていると感じる」と話します。 その背景として、「趣味が細分化されていること」を挙げます。「ニッチな趣味を持っていたとしても、ネットで同じ趣味を持つ人とつながりやすく、活動を続けやすくなっています。このため、マニアに限らず、みんなと同じ趣味を持たなくてもいい時代になってきたのだと思います」 「そんな中で、『自分がはまれることを選んでいい』『こんな生き方もあるんだ』と教えてくれるという存在が、マニアの需要なのではないでしょうか」
「あるのに見えない、世界が見えた」 「マニアフェスタ」で掲げるキャッチコピーは「あるのに見えない、世界が見えた」。松澤さんは「みなさんが『知らなかったこと』を知らせるというより、知っていたはずなのに『見ていなかったもの』のを見せるという趣旨のものが多いと思います」 例えば「名代 富士そば」も存在は有名ですが、独自メニューに目を向ける機会はなかった人が多いのではないでしょうか。確かに、イカも信楽タヌキも「こんな楽しみ方があったのか!」と膝を打つ奥深さがありました。 「そういう『視点』を提供できればいいなと思います」と松澤さんは話します。 マニアフェスタの魅力については「知識量の勝負じゃないこと」。確かに、ブースで出展するマニアの方と話すと、あたためていた「好き」の気持ちを、こちらの様子をうかがいながら、教えてくれるつつましさがありました。マニアだけではなく来場者もそれを察しながら、イベントを大切にしていることが感じられます。マニアフェスタは29日まで。「知ってるけど見えていない世界」、覗いてみませんか。 ◇【マニアフェスタvol.3】日時:2019年9月28日(土)12:00~19:00、9月29日(日)12:00~18:00場所:アーツ千代田3331(東京都千代田区外神田6丁目11-14)入場料:1日券 前売り 800円 / 当日 1000円 / 小中学生 500円詳しくは、マニアフェスタvol.3のサイト(https://maniafesta.jp/vol-3-summary/)をご確認ください。