巨大な岩が家を直撃、暗がりから母のうめき声…続く揺れに「怖くて眠れない」

大型連休まっただ中の能登半島を激しい揺れが襲った。5日昼、石川県 珠洲 (すず)市で震度6強を観測した地震。岩石が民家を直撃し、倒壊した家屋が車を押しつぶした。夜に入っても揺れは続き、住民は「怖くて眠れない」と表情をこわばらせた。

珠洲市正院町では、高さ30メートルほどの切り立った崖が崩れ、巨大な岩が会社員坂東典明さん(59)の木造2階建て住宅の1階部分になだれ込んできた。
同じ部屋にいた妻の無事はすぐ確認できた。しかし、奥の台所で茶わん蒸しを作っていた母、 亨子 (みちこ)さん(80)の姿が見えない。暗がりからうめき声が聞こえた。助けに向かったが、床に家財道具が散乱して前に進めない。やっとのことで声がする場所にたどりつくと、母は流し台と崩れ落ちた天井の間に挟まれていた。
板きれを使って天井を押し上げようとしても上がらない。近所の人が駆け付け、車用のジャッキを使ってすき間を広げてくれた。救急隊員らが力を合わせ亨子さんを引っ張り出し、ドクターヘリで病院に運んだ。
坂東さんは「母の意識はしっかりしており、ひとまず安心した」とほっとした表情で語った。
築90年以上という坂東さん宅は、昨年6月の地震でも屋根瓦が落ち、最近修理を終えたばかり。「消防の人から、家の中は危険だから入るなと言われている。家がどれだけ壊れたかわからない」と肩を落とした。

地震発生時、同市正院町の会社員の男性(57)は畑に行くため外にいた。近くの家が大きく揺れ、ひし形にゆがんで見えた。自宅にいた妻は、居間で尻もちをつき動けずにいた。男性は「余震が怖くて夜も眠れない」と不安そうに話した。
同市正院町の羽黒神社では、昨年6月の地震で根元にひびが入っていた鳥居が、完全に倒れた。宮司の妻(55)は「また大きな地震があるかもしれないと思っていた。いつになったら収まるのか」と肩を落とした。

珠洲市内では、多くの人が観光を楽しんでいた。
「揺れがどんどん大きくなり、立っていられなかった」。珠洲市の観光名所「見附島」の近くにいた埼玉県飯能市の会社員の男性(60)は、四つんばいになって揺れに耐えた。
地震の影響で珠洲市内に足止めされた観光客も出ている。同市野々江町の「道の駅すずなり」の駐車場には、車中泊を決めた観光客の車が10台ほど並んでいた。
金沢市から夫婦で訪れていた会社員(39)は「ここへの道中、倒壊した家の下敷きになっている車などを見た。落石も怖いので、夜は動かない方が良いと思い車中泊を決めた」と不安そうだった。

珠洲市に近い七尾市の「のとじま水族館」は当時、1000台収容の駐車場が満車の状態だった。従業員が館外に一斉に避難誘導し、けが人はなかった。金谷勉副園長は「お客さんが冷静に対応してくれて助かった」とほっとした様子で話した。
地震の影響で、北陸新幹線は一時運転を見合わせ、金沢駅(金沢市)の改札前は、運転再開を待つ人でごった返した。家族で観光に訪れていた東京都の高校生(16)は「明日は学校がある。今日中に帰れるか不安だ」と表情を曇らせた。
夜も強い揺れ 市が対応急ぐ

珠洲市は夜になっても震度5強の揺れに襲われ、市役所の危機管理室では緊急地震速報と電話の音が鳴り響く中、職員らが新たな被害がないか情報収集に追われた。泉谷満寿裕市長は「外は真っ暗でこれからのパトロールは危険だ。対応を早急に検討する」と話した。
5日昼に発生した地震による震度は次の通り。
▽震度6強 石川県珠洲市
▽震度5強 能登町
▽震度5弱 輪島市
▽震度4 七尾市、羽咋市、志賀町、中能登町、穴水町、金沢市、小松市、かほく市、能美市、新潟県妙高市、上越市、長岡市、三条市、十日町市、刈羽村、佐渡市、富山県舟橋村、高岡市、氷見市、小矢部市、射水市、福井県あわら市、坂井市