〈証拠文書入手〉茨城県 民間人採用の次期校長が“偽造離婚届”を提出していた 家裁は無効と認定

茨城県立つくばサイエンス高等学校(茨城県つくば市)の民間人校長として採用された遊佐精一氏(52)が、妻の同意が無いまま知人に署名させるなどした離婚届を提出し、家庭裁判所が届け出は無効と審判していたことが、「 週刊文春 」の取材でわかった。偽造有印私文書行使罪などに当たる可能性がある。
県肝煎りで開校した有力新設校の校長に昇任予定
茨城県は2019年から、過去の事例にとらわれない新しい時代の学校マネジメントができる校長を求め、教員免許・経験不問の民間人校長の採用を続けてきた。今年度も3月28日に3人の採用者を発表。試験は狭き門で、受験者数1645人に対し、合格者数は4人(1人辞退)だった。
その一人が、つくばサイエンス高校の校長に就任予定の遊佐氏だ。
「つくばサイエンス高校は、県肝煎りで今年4月に開校したばかりの有力新設校。将来の研究者や技術者育成を掲げ、実践的なカリキュラムが組まれているのが特徴です。遊佐氏は1年間、副校長として経験を積んだ後、来年4月に校長に昇任する。遊佐氏の校長就任は、朝日新聞デジタルでも顔写真付きで報じられるなど、注目を集めました」(県関係者)
東京大学大学院修了後、米フォックスチェイス癌研究所などで研究員を務めてきた遊佐氏。2018年9月にはバイオベンチャー企業「テラ」の代表取締役社長に就任した。
「テラは東証スタンダード市場に上場していましたが、2021年3月6日までに、コロナ治療薬の開発に関する情報開示を巡り、証券取引等監視委員会の強制調査(金融商品取引法違反の疑い)を受けました。遊佐氏は社長を退任していたものの、当時、取締役の一人だった。その後、取締役を退任し、テラも経営破綻しました」(社会部記者)
その遊佐氏には、1990年代後半に結婚したA子さんという妻がいた。長年、家庭円満に暮らしていたというが、昨年1月3日、遊佐氏はA子さんに突如、離婚の意思を通告。彼女がこれを拒否すると、1月7日、妻の同意のないままに、離婚届を区役所に提出したのだ。区役所から届け出の受理を通知され、言葉を失ったA子さんは弁護士と相談のうえ、東京家庭裁判所に離婚の無効を申し立てた。
家裁の審判は「当事者の離婚意思を欠き、無効」
家庭裁判所は昨年3月18日、次のように審判を下している。
〈申立人(A子さん)は、令和4年1月3日、相手方(遊佐氏)から離婚届に署名押印を求められたが、拒否した〉
〈相手方は、離婚届の申立人及び相手方の氏名、住所、本籍等及び届出人署名の相手方部分を自書し、申立人の署名及び証人欄は知人に依頼して記載させて、届出人署名欄に申立人の実印を冒用して押捺し、令和4年1月7日、離婚届を提出した〉
つまり、家庭裁判所は、遊佐氏が自らA子さんの氏名、住所、本籍などを記入し、さらに知人に依頼して無断でA子さんの署名をさせるなどして離婚届を提出していたと事実認定したのだ。そのうえで、こう結論付けている。
〈申立人と相手方との協議上の離婚は、当事者の離婚意思を欠き、無効であることが明らかであるといえる〉
それから間もなく、遊佐氏は再びA子さんに離婚を迫り、4月28日に正式に離婚が成立した。ところが直後、遊佐氏が別の女性B子さんと5月2日に結婚し、それ以前に子供も儲けていたことが発覚。憤りを覚えたA子さんは、遊佐氏の行為が偽造有印私文書行使罪などに当たるとして警察に被害相談を重ねてきた。
離婚問題に詳しい田村勇人弁護士(フラクタル法律事務所)が指摘する。
「離婚届が届出人の同意なく署名し、提出された場合は、偽造有印私文書行使罪に当たり得ます。今回の場合、届出人が偽造を主張し、家裁で無効が確定していることから同罪に当たる可能性が高い。法定刑は3カ月以上5年以下の懲役です」
遊佐氏に事実関係の確認を求めたところ、メールで主に以下のような回答があった。
「記事が出ることは、それはそれで本望です」
「文書偽造は行っておりませんし、弁護士にも裁判官にも警察にもその事実を指摘されたことはありません(文書偽造は素人が思いつく定義より複雑なものなので、まずはそこの認識の差が問題ではないでしょうか)。本年5月現在、刑事告発された事実もありません。そして離婚後に私がどのようなバックグラウンドのある女性と再婚しても、それは私の自由ではないでしょうか。
記事が出ることは一見最悪なことかもしれません。しかし、その結果、生徒の中から正義感の強いジャーナリストを目指す子が現れたら、これは素晴らしい出来事になります。私の経験全てが、高校生の役に立ったら良いと願っているので、それはそれで本望です」
一方、A子さんは事実関係を認めたうえで、以下のように語った。
「校長になると聞いて、唖然としました。自身の行為を子供たちにどのように説明するのでしょうか」
茨城県教育委員会に見解を求めたところ、以下のように回答した。
「県教育委員会といたしましては、今回ご質問いただいた内容につきまして、事実を把握しておりません。今後とも県立高校の適切な運営に努めてまいります」
茨城県は公務員に対し、高い倫理観や使命感を持って職務に精励することを求めてきた。子どもたちの教育現場を預かる校長や副校長にはより一層の高い倫理観などが問われるだけに、茨城県が遊佐氏の問題にどのように対応するのか、注目される。
5月9日(火)12時配信の「 週刊文春 電子版 」および5月10日(水)発売の「週刊文春」では、A子さんの証言や、役所に提出された“偽造離婚届”の写真、遊佐氏との一問一答などについても報じている。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年5月18日号)