「地域でよくトラブる暴走老人だった」“蒲田・中1男子刺傷”61歳容疑者が事件前夜に発した“理不尽な怒鳴り声”「もう店に行かないからな!」

「誰か! 救急車を呼んで!」
朝の住宅街に女性の叫び声が響き渡った。
5月10日午前8時過ぎ、大田区西蒲田の住宅街で中学1年生の男子生徒が通学途中に刃物で刺される事件が発生。警察は現場付近を徘徊していた山下泰範容疑者(61)を傷害容疑で現行犯逮捕した。社会部記者が解説する。
「山下容疑者は、少年の父親が勤務する家電量販店の常連客で、2人は事件前から面識がありました。ただ、商品を購入する目的ではなく、父親を指名してはクレームを入れていたようです。警察は容疑者と父親との間にトラブルがなかったか調べています」
地面には50センチ四方の血だまりが…
クレームがエスカレートして犯行に至ったのか。取材を進めると、山下容疑者が被害者の父親以外とも多くのトラブルを抱えていることが明らかになった。
事件があったのは蒲田駅から徒歩5分ほどの閑静な住宅街。すぐ近くには学校や商業施設が立ち並び、日中でも人通りが多いエリアである。山下容疑者が凶行に及んだのは学校や会社に出かける人が増え始めた午前8時過ぎで、被害にあった中学生は登校途中だった。
事件直後に警察に通報した女性が凄惨な事件現場を思い出して眉を顰める。
「お母さんの『救急車を呼んで!』という叫び声がしたので外をのぞくと、お母さんがお子さんを抱きかかえるように座り込んでいました。男の子はひどく出血しているようで、地面には50センチ四方の血だまりが出来ていました。腕も刺されたのか、お母さんが手で押さえて必死に止血しようとしていたんです。お父さんも近くに立っていて、小さいお子さんを守るように抱きかかえていました」
刺された中学生は命に別状はないものの、重傷だという。女性が続ける。
父親は「犯人ならわかります」
「大変だと思って近くに駆け付けました。しばらく男の子は目を開いていたのですが、だんだんと薄目がちになり、ついには閉じてしまって心配になったんです。ただ、救急車で運ばれるときまで意識はあったようです。警察への電話は途中でお父さんに代わってもらったのですが、その時に『犯人ならわかります』と言っていたのを覚えています」
いつものように学校に行き、友人たちと学校生活を過ごすはずだった少年の日常は、身勝手な犯行により壊されてしまった。被害者の自宅近くの住民は、被害者一家は誰かに恨みを買うような人たちではないと、怒りに声を震わせる。
「被害にあった男の子は『いってらっしゃい』と声をかけると『こんにちは』と必ず挨拶を返してくれるいい子でした。被害にあった一家はいたって普通の家庭で近所トラブルがあったこともありませんし、誰かの恨みをかうような人たちではないと思います」
「いつもうつむきがちで背を丸めて歩いていた」
一方の山下容疑者は、事件以前から被害者の父親が勤務する家電量販店を訪れては、父親を指名して接客させ、度々トラブルを起こしていたという。その山下容疑者に対し、近隣住民の女性は「近くに住む人だと思っていた」と語る。
「容疑者のことは近所でよく見かけていました。事件現場の近くはもちろん、近所の公園にいる所も見かけました。いつもうつむきがちで背を丸めて歩いていたのを覚えています。だいたい逮捕された時のようなラフな格好をしていました。この近所に住んでいる人なのかな、と思っていましたが、まさかこんな事件を起こすなんて……」
住宅街とはいえ、蒲田駅から数百メートルの現場付近は日中の人通りが多い。平日であっても容疑者と同じ年代の男性も少なくなく、容疑者が街の風景に溶け込んでいたのも頷ける。ただ、事件の前日には犯行の前兆ともいうべき騒動が起こっていた。
「事件の前夜、被害者宅の方から男性の怒鳴り声が聞こえて来たんです。声を聞く限り旦那さんではありませんでした。『もう店に行かないからな!』というようなことを言っていました。ちょうど同じ時間に容疑者らしき男が被害者の家の前にいたようなので、きっと怒鳴り声も同じ人だと思います」(同前)
翌朝、山下容疑者は自宅から包丁を持ち出し、犯行の機会をうかがうかの如く現場付近を徘徊していた。事件直前、被害者の自宅前を通り過ぎた高齢女性は犯行前の山下容疑者を目撃している。
事件前から度々騒動を起こしていた地域の“暴走老人”
「朝、家を出ると中年の男性が手にビニール袋を提げて被害者の家の前を何度も往復していたんです。近所の人ではないし、何をしているんだろうと思いました。その後、報道で容疑者の顔を見た時、あの時うろうろしていた人だ、と分かったんです」
事件以前から現場周辺で目撃されていた山下容疑者。被害者の自宅周辺を訪れ、一方的に恨みを募らせていったのだろうか。しかし、「容疑者が起こしていた問題は被害者の父親へのクレームだけではない」と捜査関係者は声を潜めて語る。
「山下容疑者は事件が起こる前から度々騒動を起こしていた地域の“暴走老人”でした。被害者の父親の勤務先だけではなく、他の店舗も山下容疑者のクレーム被害を受けていました。巡回中の警官をつかまえて2時間以上絡みつづけたこともあったようです」
何の罪もない少年を狙った身勝手な犯行。真相の究明が待たれる。
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