ウクライナ侵略の影響、日露共同研究15件中止…鳥インフルや原発廃炉

ロシアのウクライナ侵略を受け、政府が支援する日露共同の科学研究のうち、研究費の配分打ち切りなどで少なくとも15件が中止になったことがわかった。鳥インフルエンザや東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に関する研究もあり、日本の重要課題への対策に影響する恐れがある。
農林水産省や文部科学省などが関わる共同研究の動向を読売新聞が調べた。農水省は2020年度以降、鳥インフルエンザウイルスや森林管理などに関する共同研究計9件を進めてきたが、22年2月の侵略開始を受け、同年11月にすべての予算配分の打ち切りを決めた。
鳥インフルは、感染した渡り鳥がシベリアから南下して日本に持ち込まれる。共同研究では、ロシアの研究者が渡り鳥の試料を集め、日本の農業・食品産業技術総合研究機構がウイルスの遺伝情報を分析、感染拡大の予想に役立てる狙いがあった。同機構の内田裕子グループ長は「ロシアの感染状況を把握できないと、日本の対策の遅れにつながりかねない」と懸念する。
大学などの自主的な判断で中止した例もある。文科省所管の日本学術振興会は21年度までは例年15件程度の日露共同研究を採択し、1件あたり年間約200万円を日本の大学などに配分してきた。だが、侵略開始後、名古屋大など日本側から中止の申し出が4件あったという。
このうち、火山活動に伴う津波についてモスクワ大と共同研究を計画していた海洋研究開発機構は「日露の研究者の相互訪問ができず、中止を決めた。やむを得ない状況だった」と説明する。
また、文科省は侵略直前の21年12月、福島第一原発の炉心溶融(メルトダウン)事故で溶けた核燃料の共同分析に向けた2件の事業を始めた。しかし、侵略開始後は「日露で成果を共有することは困難だ」(文科省担当者)として、今年4月から日本単独の事業に変えた。
科学技術政策に詳しい桑原輝隆・元政策研究大学院大教授は「歴史的にも、戦争で重要な科学研究が止まるケースは多い。国際情勢が改善するまで国内で研究が続けられる枠組みなどを、政府も検討するべきだ」と話している。