原告ら落胆と憤り「肩すかしで中身ない」 女川原発差し止め請求棄却

東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)を巡り、石巻市民らが再稼働の差し止めを求めた訴訟。仙台地裁は24日の判決で請求を棄却し、争点だった避難計画の不備に踏み込まなかった。事実上の全面敗訴に支援者は落胆し、原告らは控訴を表明した。
「ふざけるな」「どうやって逃げると言うんだ」。午前11時すぎ、判決を言い渡した斉藤充洋裁判長が閉廷を告げると、傍聴席から怒号が飛んだ。裁判所前で「不当判決」と書いた紙が掲げられ、待ち構えた支援者らを重苦しい沈黙が包んだ。
住民避難を巡っては水戸地裁が2021年3月、初めて避難計画の不備を理由に日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)の運転差し止めを命じた。原発そのものの安全対策だけでなく、放射性物質が放出された際の備えも必要との視点から、周辺自治体の多くが避難計画を策定しておらず、策定済みの計画も具体性を欠くとして「防災体制は極めて不十分」と断じていた。
女川原発訴訟の弁護団はこの判決も踏まえ争点を避難計画の不備に絞ることで、専門的な知見がある電力会社側に有利な科学論争を避ける戦略をとった。
しかし今回の判決は、原告らが想定を超えた災害の発生や重大事故の危険を前提に避難計画の実効性を問うことは「理解できないわけではない」としながらも、重大事故の危険を原告側は主張・立証しておらず、再稼働すれば住民に危険が及ぶとの主張は「前提を欠く」と指摘。原告側が個別に列挙した避難計画の不備にはほとんど触れなかった。
原告団事務局長の日野正美さん(70)は「中身に踏み込むならまだしも、入り口にも立たないなんて。(原発事故による)福島の人たちの苦しみを考えて判断してほしかった」と目に涙を浮かべた。
判決後の集会で原告団の原伸雄団長(81)は「肩すかしで中身のない判決だ。速やかに控訴したい」と表明。副団長の佐藤清吾さん(81)は「国策におもねった判決。具体的危険というが、過去の事故が大きな証拠だ」と憤った。
小野寺信一弁護団長は、避難計画は重大事故を前提に作成されている一方、判決は事故の危険を原告側が立証するよう求めたことに「住民側には不可能だ。(事故の危険を)立証できないと誰も避難計画の不備を指摘できないなら避難の過程で多くの命が失われる」と批判し、控訴審でも避難計画の不備を前面に争う方針を示した。
法曹界からも疑問の声があがった。東海第2原発訴訟の弁護団事務局長、只野靖弁護士は「水戸地裁判決は事故時の甚大な危険性を直視したからこそ導き出されたが、仙台地裁の判決はこの理解が足りていない」。関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の再稼働を認めない判決を出した元福井地裁裁判長の樋口英明さんは「事故が起きれば国を滅ぼしかねず最大限の対策が求められるという原発の本質を見ていない。裁判所は避難計画の問題を正面から判断しないといけない」と指摘した。
東北電の大渕正和原子力部長は判決後、仙台市内で報道陣に「原発の安全確保対策をしっかりやっていく。エネルギーセキュリティーや安定供給の観点から原発は必要だ」と理解を求めた。【百武信幸、遠藤大志、土江洋範、小川祐希】
東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク学)の話
原発事故において避難計画の実効性は人的被害の軽減に必須だが、今回の判決では裁判官がこれを十分に認識していなかった。過去の原発事故の記憶が風化していることや原発を推進する政府の政策が影響しているのではないか。
原発事故の責任は電力会社も負う。企業として将来の負担を軽減するため、東北電力は避難計画の問題点に積極的に対応すべきだ。
女川のように原発の近くを通らないと避難できない例は他にもある。原子力規制委員会は住民の避難行動に詳しい専門家を加え、避難計画の実効性を再稼働の要件とすべきだ。
東北電力女川原発の再稼働を巡る主な経緯
2011年 3月 東日本大震災で被災し、定期点検中の2 号機を含む全3基停止
13年12月 東北電が2号機の再稼働に向け原子力規 制委員会に審査を申請
18年10月 東北電が1号機の廃炉決定
19年11月 住民らが宮城県と石巻市に地元同意差し 止めを求め仙台地裁に仮処分申し立て
20年 2月 2号機が審査に合格
7月 仮処分申請却下(即時抗告審も棄却)
11月 村井嘉浩知事、須田善明女川町長、亀山 紘石巻市長(当時)が再稼働に同意
21年 5月 住民らが東北電に再稼働差し止めを求め 仙台地裁に提訴
23年 5月 差し止め請求棄却(24日)
11月 安全対策工事完了(予定)
24年 2月 2号機再稼働(予定)