4月の衆参補選が自民党の「4勝1敗」となったことで、岸田文雄首相は解散のフリーハンドを握ったと言っていいのではないか。これが1勝4敗や2勝3敗だったら、とても解散を言い出せる雰囲気にはならなかっただろう。
果たして岸田首相は、いつ解散を決断するのか。筆者は「年内解散」の可能性が大きいと見る。
就任から1年半が経過し、岸田首相の「実現したい」政策は大体出そろった。具体的には、「新しい資本主義」と銘打つ、賃上げを起点とするデフレ脱却や少子化対策といった内政課題だ。一方、外交・安全保障面では、ロシアのウクライナ侵略などを踏まえた「リアリズム外交」と、防衛力の抜本的強化が「岸田政策」と言えるだろう。
少子化対策や防衛力強化に伴う財源問題については賛否両論が渦巻く。こうしたなか、ここで「国民の信」を得ておく必要があると考えてもなんら不思議ではない。ただ、解散したとしても、選挙情勢は楽観を許さない。
衆参補選や統一地方選の結果を見ると、筆者は、自民党に「逆風」が吹いていたと推測している。内閣支持率が回復傾向にあり、自民党支持率も堅調に推移しているものの、あくまで「世論調査」上のことでしかない。
国民の中には、長引く不況やデフレなど、わが国を覆う閉塞(へいそく)感と、それを打破できない政治への不満が相当たまっているように思える。
それでも、岸田首相が解散を来年以降に先送りすることはないだろう。選挙情勢の悪さに解散を逡巡すれば、「解散できない首相」として一気に求心力が低下しかねない。
また、年内解散をしないとすれば、次に解散できるタイミングは次期通常国会が終了する来年6月まで待たなくてはならない。それでは遅すぎるということではないか。
解散には野党も異論がないはずだ。かねて野党は「負担増を求めるなら解散して信を問え」と主張してきた。いまさら「解散の大義名分はない」とは言えないだろう。負担増に反対なら、対案を示して国民に選択肢を提供するのが野党の役割ではないか。
年内解散の場合、その時期は1.今通常国会会期末の6月2.9月の臨時国会の冒頭3.臨時国会で処理すべき法案などを成立させた後の10月から11月―の3つのどれかだろう。筆者は9月説が有力と見るが、どれを選ぶかは岸田首相の判断だ。
岸田首相は「今、衆院の解散は考えていない」と述べているが、額面通りに受け取ることはできない。解散に関しては、「今」考えていなくても、「明日」になったら変わることは許される。それが永田町の不文律だ。 (政治評論家・伊藤達美)