長野4人殺害 にじむ計画性と衝動性 精神状態焦点

長野県中野市で警察官ら4人が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された青木政憲(まさのり)容疑者(31)は被害女性2人からの「悪口」を犯行動機として語り、一方的に恨みを募らせて凶行に走った可能性が出ている。事件は1日で発生から1週間。一連の犯行からは強い殺意や計画性が浮かぶ一方、衝動的とみられる行動もうかがえ、当時の精神状態などの解明が今後の焦点の一つとなりそうだ。
「助けて、誰か助けて」
5月25日夕、青木容疑者の自宅近くで農作業中だった男性(72)の元に、血相を変えた村上幸枝さん(66)が走ってきた。男性によると、背後から追いついた青木容疑者は、村上さんの背中を2回刺した。村上さんは体をよじって崩れ落ちたが、青木容疑者はためらうことなく、今度は胸を刺した。
県警によると、この直前に、村上さんと一緒に散歩をしていた竹内靖子さん(70)も刃物で襲ったとみられる。村上さん襲撃を目撃した男性が「なぜそんなことをするんだ」ととがめると、青木容疑者は「殺したかったから殺した」と淡々と言い放ち、自宅方向に立ち去ったという。
間もなく、通報を受けた中野署地域課の玉井良樹警視(46)=2階級特進=と池内卓夫警部(61)=同=がパトカーで到着。自宅から猟銃を持ち出し、戻ってきた青木容疑者は運転席の窓越しに発砲し、玉井さんには刃物でとどめを刺した。この間、10分余りの惨劇だった。
「周囲から孤立しているように悪く言われた」
女性2人を襲った動機をこう説明し、殺意や計画的な犯行を示唆している青木容疑者。ただ、2人が日常的に大声で話しながら、青木容疑者の自宅付近を散歩する姿は目撃されているものの、「悪口」は具体的に確認されていない。2人には、青木容疑者の母親と趣味を通じて接点があったとの情報もあるが、トラブルは浮かんでいない。
捜査関係者によると、竹内さんは青木容疑者の自宅裏で見つかっており、青木容疑者が襲撃後に台車で運んだとみられる。村上さんの襲撃現場付近でも「猟銃を胸に抱えながら台車を押していた」とする住民の目撃証言があり、村上さんも同様に移動させ、事件発覚を遅らせる狙いがあった可能性がある。
一方、青木容疑者は警察官2人の銃撃に、散弾銃より命中精度の高い「ハーフライフル」と、殺傷能力の高い「スラッグ弾」を使用したとみられる。逮捕直後、警察官に発砲した理由を「射殺されると思ったので殺した」と供述しており、パトカーの接近に気づいた上での衝動的な犯行だった可能性もある。
自宅に立てこもった後の2度の発砲音は、青木容疑者が自殺を図ろうとした際のものとされる。自宅に残った母親やおばに危害を加える様子はなく、時間差で2人を解放。最後は父親の説得に従って投降した。
捜査関係者は動機の解明や客観証拠の収集に加え、「青木容疑者の刑事責任能力の有無も焦点の一つになり得る」とした。