「現在の難民審査参与員制度は参与員によってあまりにばらつきがある。まともな参与員に当たらないと認定されない。まるで『参与員ガチャ』だ」――。
入管法改正案の審議が国会で続く中、出入国在留管理庁による1次審査で難民不認定となり、不服を申し立てた外国人を再審査する難民審査参与員制度のあり方が課題に浮上している。
5月23日の参院法務委員会に参考人として出席した元参与員の阿部浩己・明治学院大教授は、委員会後の記者会見で「参与員は(難民認定の)専門家ではない。有識者と名前はついているが、難民認定については全く経験していない。審査の研修すら受けていない。あくまでそれぞれの分野での専門家だ」と指摘した。
毎日新聞は現役の難民審査参与員4人に取材し、匿名を条件に、制度に対する課題を語ってもらった。
参与員により経験や知識に大きな差
入管庁のホームページによると、参与員は法律または国際情勢に関する学識経験者の中から任命され、3人で班を構成。難民申請が却下された申請者に対して口頭意見陳述や質問等の審理手続きをする。非常勤の国家公務員で、参与員が多数決で決めた意見を法相が尊重して、難民と認定するかどうか最終判断する。
法曹関係者で、難民認定すべきだとの意見を積極的に出しているという参与員A氏は、難民認定の明確な基準が参与員に示されていないことを問題視し、参与員による判断のばらつきがあると指摘する。「国際人権法や難民条約の何に、どう沿って判断をするかなどの基準が入管から示されていない。運用は班に任され、班によって相当判断が違う」と話す。
学識経験者の参与員B氏は「裁判官や検事出身などの法曹関係者は、申請者の国家がきちんと機能しているという前提で話を進める。難民が来るのは破綻した国家から。申請者に対して『どうして警察や裁判に訴えなかったのか』と問い詰めるが、国によっては警察が迫害主体になっていたり、裁判が政治にまみれていたりする。紛争国や途上国に対する見識をお持ちでない」と語る。
別の学識経験者の参与員C氏は「口頭意見陳述で、ある国際協力に携わってきた参与員は、自分の経験だけで申請者の訴えに『そんなことはあり得ない』と詰めていた。はなから難民該当性を否定にかかっているように見えた」と訴える。
B氏は参与員の知識や経験不足を解消するために、入管庁に参与員へのトレーニングや審査事例の共有を求めてきたが、実現していないという。「植民地支配の歴史や紛争地の現状に対する知識が不足していたり、途上国に関わった経験が全くなく、紛争地を想像できなかったりする法曹関係者がほとんど」と指摘する。
A氏も「難民条約について知識を持っていない参与員がいることは確か。参与員の中に共通の認識がない」と語り、研修がないことに対して危機感を募らせる。
あまりに低い難民認定率
現役参与員のD氏は「難民該当性を決定的に証明することは難しい」と語る。一方、A氏はDV(ドメスティックバイオレンス)の被害者が決定的な証拠を持っていないことと同じように「拷問など、証拠がないのは当たり前。当局が拷問してその記録を本人に渡すわけがない。客観的に証言が不自然ではないかが判断基準」と話す。
参与員にとっては、不認定が「楽」
A氏は「嫌な言い方をすれば、不認定の方が参与員にとって楽」と審査のシステムに疑問を呈す。
B氏は「不認定になった1次審査の書類には、複数の不認定の理由が書いてある。再審査で認定の意見書を作るには、それに一つ一つ反論することが求められる。数十時間の作業になる」と語る。不認定の場合は、「入管の用意する書類に『異議無し』と述べればいいだけ」という。事前に資料を精査したり、意見書を執筆したりする時間も含めて期日1回分の報酬は2万円強だという。
C氏は「こんなアルバイトみたいなことなら気楽にやろうって人が当然増えてくる」と指摘する。
現在審議中の入管法改正案では、3回目以降の難民申請者は強制送還が可能になる規定がある。A氏は改正案を率直に「怖い」と語る。「2回、3回と申請して認定される人もいる。(改正案では)難民認定されるべき人が取りこぼされてしまう」と話す。
C氏は「国から独立した、専門知識を持ちトレーニングを受けた人による新たな機関が必要だ」と訴えた。【白川徹】