違法な「ゲームプレー動画」をユーチューブに公開したとして、仙台地検は7日、名古屋市千種区、ウェブクリエイターの男(53)を著作権法違反で仙台地裁に起訴した。男が投稿したのは、短時間で結末までわかる「ネタバレ動画」と呼ばれるもので、広告収入が目的だったとみられている。ゲーム制作会社はガイドライン(指針)で投稿できる動画の種類を定めており、業界団体は「ルールの範囲内で正しく楽しんでほしい」と呼びかけている。(青木聡志、奥田樹、浅井望)
ゲーム映像と音声が淡々と流れ、声はほとんど入っていない。男がユーチューブに投稿した約1時間の動画は、人気アドベンチャーゲーム「シュタインズ・ゲート」のシリーズ作品。動画には、制作会社「ニトロプラス」が禁止するエンディングシーンが含まれていた。
起訴状では、男は2019年9月頃~22年5月頃、同作品の映像を編集したゲームプレー動画を含む3本の動画をユーチューブに公開し、10社の著作権を侵害したとされる。
捜査関係者によると、男は数年前にユーチューブに自身のチャンネルを開設し、アニメ関係の動画投稿を始めた。次第に視聴数が増え、広告収入を得るようになった。警察の調べには、「違法と知りながら、収入を生活費に充てていた」と供述した。ユーチューブ以外に収入はなかったといい、宮城県警は再生回数を増やすことでより多くの収入を得ようとしたとみている。
大手ゲーム、アニメ会社が加盟する著作権団体「コンテンツ海外流通促進機構」(CODA)によると、アドベンチャーゲームはゲームを進める中で表示されるイラストや文章からストーリーを楽しむもので、読み物に近いという。
著作権に詳しい中島博之弁護士は今回の動画について、「小説の結末まで全て見せるような内容で悪質性が高い」と指摘。「コンテンツ大国である日本で違法な動画を放置すれば、コンテンツが守られない。摘発が悪質な投稿者への抑止力となる」とする。
CODAによると、国内のゲーム配信は動画投稿サイトの普及とともに約20年前から急速に広がった。ゲームをプレーする様子を楽しむものもあれば、「ネタバレ」を目的にした悪質な動画も当初から多かった。
ゲーム大手「任天堂」は18年11月、配信に関する指針を公表。各社も続き、特定シーンの投稿を制限するなどの配信に関するルール整備を進めた。
ただ、広告収入を得ようと指針から外れる違法動画は後を絶たず、ゲーム会社が投稿サイトの運営会社に削除を依頼しても、すぐに別の新たな動画が投稿されるという「いたちごっこ」の状態が続いた。
コロナ禍で自宅で過ごすことが増えたこともあり、投稿サイトには把握できないほどの違法動画があふれたという。
ゲームプレー動画が全て違法になるというわけではない。ゲーム会社によっては宣伝効果やプレーヤー人口の拡大を期待し、指針の範囲内での編集や投稿、配信を認めている。プレーする様子を公開するのは問題ないが、著作権侵害に当たる恐れがあるのは、ゲーム内の映像や静止画、音楽のみを切り取った動画という。
宮城県警は2年前にも長編映画を10分程度にまとめた「ファスト映画」を投稿した3人を全国で初めて著作権法違反容疑で逮捕した。3人はあらすじを説明する動画を100本超制作し、多大な広告収入を得ていた。映画会社などは損害賠償を求める民事訴訟を起こし、東京地裁は2人に計5億円の支払いを命じた。
CODAの担当者は「簡単に動画編集できるため、意識せずに著作権を侵害することもある。基本的には許可なく投稿や配信できないことを意識してほしい」と話している。
◆ゲームプレー動画=ゲームをプレーする様子を編集した動画。プレー状況を中継し、リアクションや説明を交えるものは「実況動画」と呼ばれる。コロナ禍の巣ごもり需要で人気が高まった。芸能人による投稿も多い。