豪雨災害警戒 学校施設の浸水対策、ハードとソフトの両面で

梅雨入りに伴って水害のリスクが高まっている。今月上旬の台風2号などの影響による記録的な大雨では、避難場所となる学校施設にも被害が相次いだ。公立校の2割は浸水想定区域にあるが、施設の浸水対策が完了しているのは令和2年10月時点で15%足らず。「100年に1度」などとされる豪雨による災害が頻発している現状を踏まえ、文部科学省が進めてきた水害対策のガイドライン(手引)もまとまり、各地で態勢づくりが加速しそうだ。
備え済みは15%
今月2日から3日にかけて日本列島に接近した台風2号では、活発化した梅雨前線の影響も相まって、線状降水帯が発生するなど被害が拡大した。文科省の集計によると、8日時点で72の小学校、43の中学校など計138の公立学校施設で雨漏りや床上浸水などといった物的被害が確認された。
近年、各地の学校で浸水被害が頻発している状況を受け、文科省は5月下旬、学校施設の水害対策を推進する具体的な方法や手順などをまとめた手引を策定。地震や津波に関するものはすでにつくられており、豪雨を想定した初めての指針となった。
文科省によると、令和2年10月時点で全国の公立小中高校などのうち20%にあたる7476校は浸水想定区域内に立地。このうち、施設内への浸水対策を行っているのは14・7%の1102校にとどまっていた。
これに対し、豪雨災害の激甚化に伴って被災する学校施設の増加が目立つ。平成30年7月の西日本豪雨では667校、令和元年10月の台風19号では2170校に物的被害が出た。ともに31道府県に及ぶ広範囲で被災しており、数カ月にわたり休校を余儀なくされるなど深刻なケースもあった。
文科省の手引によると、対策は「緊急時の安全確保」と「被災後の授業再開」という2つの観点に立ち、ハードとソフトの両面からの検討が必要となる。
安全確保にハード面で求められるのは、浸水想定水位を踏まえた避難スペース確保など。ソフト面は、気象状況に応じて登下校を適切に判断できる教職員の対応力などが挙げられる。
授業再開には、ハード面で変電設備のかさ上げなど、ソフト面で重要書類の電子化などをあらかじめ進めておく必要がある。
地域の状況を俯瞰
ただ、自治体側での対応には多くの課題がある。ハード面の対策に伴う多額の費用もその一つだ。
群馬大の金井昌信教授(災害社会工学)は「予算には限界があるため、すべての施設に対策を施すのは難しい」と実情を語る。
学校施設にとどまらず、自治体庁舎、消防署、病院や高齢者施設など対策が完了していない地域も少なくない。ただ、それぞれ総務省、消防庁、厚生労働省などと所管省庁が異なるため、連携不足など縦割りの弊害を被りがちだという。
金井教授は「文科省のガイドラインが示されたことで、自治体側は学校施設の対策に注目するかもしれない。しかし、地域の状況に応じて俯瞰(ふかん)的な視点を持つことが大切だ。どの施設の整備を優先するのか順位付けが必要となる」と話す。
ソフト面の運用に関しても、教育現場任せにしないことがポイントとなる。
校長の判断に委ねた場合、その異動によって対応に差が生じるような事態を回避しなければならない。金井教授は「教育委員会が主体となり、防災部局などと連携して、教職員が異動しても防災の質を維持できる仕組みづくりを行うことが効果的だ」と指摘する。
教職員らには避難訓練などの充実が求められるが、学校や地域によっては形式的に行われるだけで形骸化しているケースも多い。
水害は事前に備えができるため、耐震化などに比べて対応が後回しとなっている感は否めない。金井教授は「地震や津波の対策が進み、ようやく水害に手が回る段階に達したとの見方もできる。防災を見直すきっかけにしたい」と話した。