国指定天然記念物となっている山形県酒田市・飛島のウミネコ繁殖地のうち、一部の場所で繁殖が確認されていない状態が続いている。野生化したネコがウミネコを襲い、巣作りできないのが一因だ。市は今後、繁殖地の再生に向け、専門家らの意見を聞いた上で対策を検討する。(中田隆徳)
ウミネコは日本近海で見られるカモメの仲間で、例年、11月から2月にかけて飛来し、8月には島を離れる。この間に島内で繁殖が行われ、5月下旬にはヒナたちがすくすくと成長する。
県内では、島南部で定期船発着所の南東にある館岩や、砂浜近くの百合島、飛島の西約1・6キロ・メートル沖合の 御積 (おしゃく)島などが、繁殖地として国の天然記念物に指定(1938年12月)されている。
しかし、環境省の調査によると、館岩では2009年に173か所で巣作りが確認されたが、14年と19年は確認できなかった。
原因として挙げられているのが、野生化したネコに捕食される被害だ。
館岩は、飛島と地続きで、港を一望できる人気の観光スポットだ。遊歩道が整備されていて、かつては、ウミネコの繁殖を近くで見られたが、野生化したネコも、この遊歩道を通って館岩のウミネコ繁殖地に侵入したとみられている。
市は、ネコがウミネコを脅かすようになった理由として、漁業者が減り、捨てられる魚が少なくなったことなどが考えられるとしている。
市と文化庁の担当者らは昨年5月、ウミネコの繁殖環境を改善しようと現地を視察。館岩でのネコの侵入ルートや、背丈が高い草が茂ってウミネコの巣作りを阻んでいる様子などを確認した。周囲を海で囲まれ、干潮時に飛島とつながる百合島でも、ネコが侵入した形跡を見つけた。
この際、文化庁の担当者は市に対し、「(営巣環境が)崩壊しておらず、再生に向けた対策を実施してほしい」と伝え、館岩へつながる遊歩道にネコが入れないようにする柵の設置や、巣作りを邪魔する草の除去といった対策を助言した。
これを受け、市は今年夏、本格的な繁殖地の再生が可能かを検討するため、専門家らの意見を聞く予定だ。
ただ、刈った草を島外へ搬出するだけでも数百万円の費用がかかるといった課題もある。
市文化政策課の川島崇史文化財主幹は、「費用をかけて対策をすれば本当に繁殖地として戻るのか、しっかり確認しなければいけない」と話し、再生が可能と判断されれば、市は来年度以降の事業化を検討するつもりだ。
飛島でウミネコの生態調査をしている日本野鳥の会県支部の簗川堅治元支部長は、「まずはネコの駆除が不可欠で、館岩へ侵入できないような措置を講じるべきだ」と指摘。その上で、「ネコに襲われてウミネコが減り、背丈の高い草が繁茂したことも営巣できなくなった一因であり、草刈りなどで営巣環境を維持し続けることが大事だ」と述べた。