押し入れに白骨化した乳児3人 出産を誰にも相談できなかった母、50年前の「罪」告白

「子供を産み落とした」-。5月下旬、70代の女性が警察に通報した。もっとも、出産は40~50年前にさかのぼるという。大阪府大東市の女性宅では、ポリ袋に入った乳児3人分の白骨遺体が見つかった。女性の〝告白〟はなぜ今だったのか。乳児の命にかかわる事件が相次ぐ中、予期せぬ出産や「生後0日死亡」などを防ぐには、どうすればいいのか。
夫は「知らなかった」
女性宅2階の和室の押し入れから見つかったポリ袋は3つ。大阪府警四條畷署員がうち1つの固結びをほどくと、毛布でくるまれた乳児らしき頭の骨が、残る2つのポリ袋にも人骨のようなものがそれぞれ入っていた。ポリ袋は3つとも何重にもなっていたという。
「人骨のような」というのも、発見間もない段階では、白骨化が進み、それが何なのか判別できなかったためだ。ある捜査関係者は「魚の背骨のようだった」と明かす。司法解剖の結果、妊娠37~40週で生まれた乳児の骨と分かったが、死因や性別は特定できなかった。
女性は夫(84)と、いずれも50代の長男と次女の4人暮らし。人骨について、女性以外の全員が「気付かなかった」と話したという。夫は6月上旬、取材に「私は知らなかった」と語った。
高齢のため女性の記憶はあいまいな部分が多いが、同署の聞き取りに「40~50年前に産んだ」と説明。同署は人骨のDNA型鑑定を行い、女性との関係性を調べる。
女性だけの問題ではない
女性が今回打ち明けた話が事実であれば、数十年前に3人の子を出産していたことになる。
妊娠期からの女性支援に詳しい目白大の姜恩和(カン・ウナ)教授は「40~50年前」を念頭に、「1970~80年代前半には、『子育て支援』という概念が広まっていなかった。出産=家庭の状態で、妊娠を誰にも相談できなかった可能性がある」と話す。ただ「ふとした瞬間に『罪の意識』が強まり、打ち明けられずにいられなかったのではないか」と考えている。
厚生労働省が令和2年からの1年間で把握した心中以外の虐待死事例では、「0歳」が32人(65・3%)と最も多く、さらに、死亡した0歳を月齢別にみると、「0日」が5割を占めた。
0日死亡事例の加害者は実母であることが圧倒的に多いが、女性だけの問題ではない。かといって、さまざまな事情から身近な人に相談できなかったり、相手の男性が分からなかったりもする。
「出産後見越した包括的支援を」
大阪・ミナミの駐車場で昨年6月、無施錠のコインロッカーに放置された紙袋の中から生後間もない女児の遺体が見つかった事件。死体遺棄容疑で逮捕された20代の母親は調べに「(同年)4月に赤ちゃんを産んで、袋に詰めてホテルを転々としていた」と話した。
経済的な苦しさから売春をしていた母親。後ろめたさから誰にも妊娠を相談できなかったという。公判で「赤ちゃんに申し訳ない」と謝罪した。
こうしたケースでは、母親自身で抱え込まなければ、子供の命が助かった可能性もある。各自治体は匿名の相談窓口「にんしんSOS」を設けており、電話やメールで相談を受けた助産師らが支援につなげる。
一般社団法人「全国妊娠SOSネットワーク」の理事も務める姜氏は、「1人で何とかしようとせず、まずは落ち着いて相談してほしい」と呼び掛け、「出産後を見越した包括的な支援も重要だ」と指摘する。(鈴木源也)