マイナンバーカード取得者向けのサイト「マイナポータル」で他人の年金記録が閲覧できるケースが少なくとも約170件に上ることが明らかになった。マイナカードを巡るトラブルが次々と表面化している。推進役のデジタル庁は、信頼回復への取り組みが急務だ。
新たに判明した問題は、いずれも地方公務員らが入る共済組合で見つかった。組合側の入力ミスで別人の年金情報をひもづけたことが原因とみられる。厚生年金や国民年金を扱う日本年金機構では現時点で同様の問題はないが、個人情報の取り扱い上、深刻な事案だ。
マイナカードを巡っては、5月にコンビニで他人の証明書が発行された事例が複数見つかって以来、短期に様々な問題事例が浮き彫りになり、今回で5類型に上る。誤った登録は、健康保険証と一体化した「マイナ保険証」や「マイナポイント」、給付金の受け取りに使う「公金受取口座」といった問題でも共通する点だ。
政府が9日に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の改定版で、「人が介在する機会を減少させるデジタル化の徹底」を明記した。政府内には一連のマイナカードを巡る問題の多くは、人的ミスが主因との認識がある。
しかし、システム上で、入力情報とマイナカード所有者の突き合わせなど、情報をひもづける仕組みは不十分だった。デジタル庁は今後、本来は本人名義の口座以外は指定できない「公金受取口座」について、システム上で口座のカタカナ名義と照合できるように改修する。
政府が昨年来、マイナカードの普及ばかりを優先し、マイナポイントを付与する一方で、2024年秋に健康保険証を廃止して「マイナ保険証」に一本化する方針を突如決めた。結果的に問題が相次ぎ、マイナカードの申請急増で、システム面の準備不足があらわになった。
デジタル庁の後手の対応も問題だ。
公金受取口座への家族名義口座の登録事案は、2月にデジタル庁の担当者が国税庁から問い合わせを受けていたが、幹部に共有されなかった。国税庁は3月にも知らせたが、デジタル庁は何も対応しなかった。
デジタル庁は21年9月に発足したが、地方自治や通信などを所管する総務省や、経済産業省からの出向者のほか、IT企業などの民間出身者を集めた1000人に満たない役所だ。他の官庁と異なり、プロジェクトごとに体制を組んでおり、情報集約や意思決定の曖昧さを指摘する声がある。
河野デジタル相は9日の記者会見で、庁内の意思疎通について「普通の霞が関の役所とは組織体制が違うところも原因の一つだ」と認めた。その上で、国会で「なんらかの形で私に対する処分はやらなければいけない」と、トップとしての責任を明確にする考えも示している。マイナカードの着実な推進に向け、信頼を取り戻す体制の整備に最優先で取り組む必要がある。