立憲民主党の離党ドミノの始まりとなってしまうのだろうか。
旧民主党政権で大臣も務めたベテランの松原仁衆院議員が6月9日、立憲に離党届を提出した。同日に衆院議員会館で開かれた会見で松原氏は「東京26区で立憲の公認候補として活動すると決意を固めたが、(立憲の)都連幹部の考え方で意見は認められなかった」と立候補する選挙区を巡って対立し、離党に至ったと説明。「やむにやまれず決断した」と心境を明かした。
松原氏は2000年に民主党で東京3区から出馬し初当選。その後も連続で当選を重ね、野田佳彦政権では国家公安委員長を務めた。2017年には民進党に離党届を提出し、希望の党に結党メンバーとして参加。希望の党が解党した後は無所属として活動していたが、2020年に立憲に入党し、2021年衆院選では自民の石原宏高氏を下して8回目の当選を重ねている。
新東京26区から出馬したい松原氏と、新東京3区から出て欲しい都連
この間、初当選から東京3区で活動を続けてきた松原氏だが、2022年に1票の格差是正のために行われた衆議院小選挙区の区割り変更「10増10減」によって東京は選挙区の数が25から30へと大きく変わることに。品川区と大田区などで構成されていた東京3区は、品川区を中心とする新東京3区と、大田区を含む新東京26区に分断されることとなった。
松原氏は区割り変更を受けて「当初から活動の拠点とし、住居を構えている大田区がある新東京26区から出馬したい」と主張したが、都連からは「新東京3区から出て欲しい」と難色を示され、議論が平行線を辿っていたと会見で語った。都連が意向を受け入れなかった理由について、松原氏は「分からない。納得できる理由を見出すことができない」と繰り返した。
一方で、都連幹部は松原氏との議論の経緯についてこう語る。
「松原氏は日本維新の会との連携に渡りをつけている」といぶかしむ都連幹部
「松原氏は当初、新東京3区と26区のどちらから出馬するか迷っていた。そこで、旧東京3区と9割の地域がかぶっている新東京3区を勧めていたが、途中から26区で出馬したいと言ってきた。私たちは『石原氏と戦えるのは松原さんしかいない』と説得していたのだが、急に離党届を出す、会見をするという話になった」
さらに今回の離党騒動について、都連幹部は「松原氏は日本維新の会との連携に渡りをつけている」といぶかしむ。松原氏はこれまで、維新の国会議員が中心になって立ち上げ、大阪都構想を推進するなどしてきた勉強会「新しい国のかたち(分権2.0)協議会」に代表世話人として名を連ねるなど、維新との近さを指摘されてきた。
松原氏は会見で、他党からの公認や連携を調整しているか問われると「全くありません。今週まで立憲での公認を求めてきた」と答えたが、立憲内では離党が「維新との連携含みだ」という見方が広がっている。
「維新との連携」に背後で動く前埼玉県知事の上田清司参院議員
こうした動きの背後にいる存在として注目されているのが前埼玉県知事の上田清司参院議員だ。次期衆院選に向けて、自身に近しい議員を集めて維新と連携していくのではないかと見られている。
上田氏はこれまで、新党設立に意欲を見せて注目されてきた。2021年の衆院選前には立憲にも国民民主にも参加しなかった無所属の国会議員らを集め、「保守中道の枠組みを作り、有権者に選択肢を示したい」と新党設立の準備をしていたが、政党要件を満たす5人の国会議員が集まらず、結党を断念。その後も新党の立ち上げを模索し続けていたが、4月の統一地方選後からは、地方議員数を大幅に増やして勢いに乗る維新との連携へ軸足をずらしていた。
「『立憲の看板では戦えない』と考える議員が増えている」
上田氏は5月8日に参院議員会館で、これまでも新党設立に向けて意見交換を重ねてきた民主党系の元衆院議員である前田雄吉氏や小泉俊明氏らと会合を開いたが、関係者によると上田氏は「新しい政治勢力を作る」ことを基本としながらも、「みんなで維新に入り込む手もある」という考えを示したという。
上田氏周辺は「立憲の政党支持率が維新に追い抜かれる世論調査が相次ぐ中、次期衆院選を『立憲の看板では戦えない』と考える議員が増えてきている」と指摘。「一方で立憲から維新にいきなり鞍替えするのは露骨すぎて、有権者の理解が得られない可能性が高い。立憲議員を応援してきた連合の人たちも反維新なので嫌がるだろう。上田氏はそういった議員たちを取り込みながら維新との連携を深めていくことで、このまま立憲で戦う以外の選択肢を示そうとしている」と狙いを解説する。
上田氏が主宰する勉強会に松原氏と次期衆院選の維新“候補”内定者
6月1日には上田氏が主宰する「日本再生協議会」による共同親権に関する勉強会が参院議員会館で開かれ、元総務官僚の渡邉泰之氏が講師として招かれたが、野党関係者によると、この渡邉氏は次期衆院選で維新から埼玉4区で出馬することが内定しており、その連携含みの勉強会であったという。そして、松原氏も上田氏に近く、この勉強会にも参加していた。
上田氏が維新への接近を強める中、立憲内では上田氏と近しい埼玉選挙区の議員や、中堅議員の名前が「離党候補」として出回り始めている。立憲幹部は「離党者が1人出れば、そこから雪崩を打って離党する人が出てくる可能性がある。松原氏の離党がその始まりとならなければ良いが」と眉をひそめる。
国会の会期末が近づき、解散風が吹き荒れる中、強風で飛ばされぬように野党議員による看板の架け替え作業が水面下で進行している。
(宮原健太/Webオリジナル(特集班))