永田町で「6月16日」解散説が急速に広がっている。「急いで選挙事務所を探さなければいけないのに、コロナが明けて経済活動が再開したから駅前の立地の良い場所では空き物件が見当たらない」「選挙ボランティアの募集をかけているが、集まりが良くない」──自民党も野党議員も選挙準備を本格化させてはいるものの、間に合いそうになくて焦りの声が聞かれる。
国会の会期末は6月21日。これまでは、野党が内閣不信任案を提出した場合、それを受けて岸田文雄・首相は会期末に解散に踏み切るとの見方が強かった。それが早まったのは、天皇の外遊という事情があるからだという。自民党ベテラン秘書が言う。
「衆議院の解散には天皇から解散詔書が発せられる必要がある。だが、天皇、皇后陛下は6月17日から23日までの日程でインドネシアを訪問される予定だ。そのため、会期末解散は無理。そこで天皇陛下が外遊に出発される前の16日解散が急浮上した」
国民民主党の玉木雄一郎・代表は、「憲法に定める手続きをきちんと行なうという意味では陛下がいらっしゃったときのほうが望ましい。6月16日解散も念頭に置いて準備を加速したい」と解散ありとの見方を語っている。
6月16日に衆議院を解散する場合、「6月27日公示、7月9日投開票」の日程が有力視されている。7月8日は銃撃された安倍晋三・元首相の1周忌にあたり、菩提寺の増上寺(東京都港区芝公園)で自民党・安倍派・安倍家合同の法要が予定されている。その翌日に投開票となれば事実上の「安倍1周忌選挙」だ。
安倍昭恵夫人の後援会長就任で混沌
自民党中堅議員は「その日程であれば安倍支持層だった岩盤保守にアピールできるから、岸田首相には自民党に有利になるという計算があるのではないか」と読む。
だが、山口県は次の衆院選から定数1減で3選挙区に再編され、安倍氏の選挙区だった旧山口4区の下関市は旧3区と統合され、「新山口3区」となる。自民党内では今年4月の補選で安倍氏の後継者としてから当選した吉田真次・代議士(旧4区)と、先代から安倍家と下関の地盤を争ってきた林家の林芳正・外相(旧3区)が新3区の公認をめぐって争っている。
自民党は今週中に定数是正に伴う公認調整に結論を出す方針で、岸田首相は自分の片腕で実績のある林氏を新3区で公認し、新人の吉田氏を比例代表に回す方向だと見られている。
しかし、安倍家側はそれを簡単には受け入れそうにない。吉田陣営では6月11日に安倍昭恵夫人が正式に後援会長に就任し、吉田氏はその日の会見であくまで新3区から出馬する意向を表明した。党本部が新3区で林氏を公認した場合、「従うかどうか、今ここで申し上げることは難しい」(吉田氏)と無所属でも出馬する可能性をにじませている。そうなれば、岸田首相は安倍1周忌選挙をアピールするどころではない。安倍派議員はこう話す。
「吉田氏が昭恵夫人のバックアップを受けて無所属で出馬すれば、下関では昭恵夫人が岸田側近の林外相と戦うという安倍VS岸田の代理戦争が勃発する。それでは安倍さんの後継者を公認しなかった岸田首相は逆に安倍支持層の反発を買うだろう」
岸田首相にとって「6.16解散」による安倍1周忌選挙に踏み切ることは両刃の剣でもある。