猿の農作物被害に苦しめられている福井県高浜町で、民間業者に委託しての対策が効果を上げている。一度捕獲した猿に発信器を取り付けて群れの行動を把握し、農家に注意喚起しているのだという。猿から農産物を守る現場をのぞいた。
同県の猿による農作物被害は昨年608万円だった。過去10年間でみるとピーク時の1017万円(2020年)は下回ったものの、猿に対策の穴をつかれると被害額が大きくなってくる。特に高浜町では猿の加害レベルが高く、県によると「群れが頻繁に集落に出没し、常時被害を与える」状況だという。
鳥獣害対策の主体は農家が担っている。多くの自治体は、農家や園芸家らが畑や田んぼで使うフェンスの設置費用などを補助する形で支援する。
高浜町では、さらに踏み込み、15年度から民間の鳥獣対策業者「エムアンドエヌ」(同町)に支援を委託。猿が農地に下りてきた時の追い払いを手伝うほか、農場でフェンスが正しく設置されているかなどの対策を伝授している。
6月初旬、記者が猿対策の現場に同行した。この日、業者は2人組で事務所を出発。田畑に猿がいないかを探る専用の受信機で探ると、程なくして「ザザッ」と機械的な音が鳴った。「あそこにいる」と指で示された先では、田んぼ近くの草むらに数匹の猿がたむろしていた。食べ物を探していたのだろうか。
猿もすぐにこちらに気付き、慣れたように様子をうかがいながらゆっくりと茂みに歩いて行った。少し車を走らせると、車道近くの林にも反応があった。猿がいるとおぼしき付近に撃退用の花火を上げると、何匹かの猿の怒ったような「ギーギー」という声がしばらくこだました。
「全ての猿を駆除することは難しいため、一度捕獲した猿に発信器を付けて群れの行動を管理しています」と代表の松宮史和さん(39)は説明する。松宮さんらは朝に猿の群れが町のどの辺りに潜んでいるかを調査し、猿の位置情報を地図に落とし込む。その情報をメールで生産者に注意喚起し、フェンスやネットに穴がないかなどの対策を確認するきっかけをつくっている。
猿の移動ルートにあった、放置された柿や栗の木も栄養源になると分かり伐採した。さまざまな工夫が奏功し、同町の猿の食害は過去10年で、ピーク時の14年に59万円だったが、20年には被害ゼロまで抑え込んだ。しかし、昨年は3万円で増加傾向がみられるという。町の鳥獣被害全体でみると13年の1054万円から徐々に減り、20年には58万円だったが、昨年は522万円にリバウンドした。
松宮さんは「電気柵などの対策が徹底できていない状況も見られる」と話し、「農家の方たちに対策を継続してもらうことで、猿などの鳥獣と人の適切な距離が保てるようになる」と持続的な警戒の必要性を改めて訴えていた。【田畠広景】